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2024年03月11日

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外国人トラベルライターが見る「北海道アドベンチャートラベル」 ― 洞爺湖有珠山ジオパークエリア

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有珠山:日本有数の活火山とともに暮らす

すぐ北にある洞爺湖とともに、「洞爺湖有珠山ユネスコ世界ジオパーク」の一部をなす有珠山。

洞爺湖ビジターセンターと、隣接する火山科学館を訪れれば分かるように、有珠山は常に活発に活動していたわけではない。約2万年前に生まれた火山で、1600年代後半まで何千年間も活動を休止していた。そのため、縄文人やアイヌの人々がこの地域に定住することができた。

ビジターセンターと科学館は素晴らしい施設だ。多言語での展示や実体験のように感じることができる映像により、洞爺湖と有珠山の形成だけでなく、この地域の地形やそこに生息する野生生物について記録し、1977年と2000年の噴火の実相を伝えている。有珠山とその活動について深い知識を持つ江川理恵さんのような北海道アドベンチャートラベルガイドの案内があれば、さらに楽しめる。

次に、金比羅火口展望台に立ち寄ると、この地域の地形が何千年もの火山活動によってどのように特徴付けられてきたかがわかった。江川さんによると、現在は活動が休止しているこの火口は2000年の噴火の際に発生。当時、水蒸気が立ち上る泥流が麓にある町の建物を破壊し、その一部は遺構として残されている。しかし地元の人たちが話す通り、有珠山は被害だけではなく、恩恵ももたらしている。

例えば約1万年前、地滑りによってかつて円錐形だった有珠山の山頂が崩れ、地滑りは山の南側の海に達した。その結果、自然の湾や貝類やカニなどの海洋生物を育む岩層からなる海岸線が形成。また1910年に繰り返し起きた噴火の後、洞爺湖周辺では天然の温泉が発見され、今日では観光客にとって大きな魅力となっている。ホテルで温泉に入ることができるほか、熱い足湯や手湯が町中に点在している。

さらに江川さんは「噴火により数メートルの水はけの良い軽石の地層ができ、また、再形成された土地が風よけの役割を果たしているので、リンゴなどの果物の栽培に理想的な環境が生まれています」と付け加えた。

私たちは寒さを逃れ、洞爺湖畔にあるレストラン「バイエルン」に入った。そこでビーフシチューを食べ、オーナーの山中徳子さんの話を聞き、活火山のすぐそばでの暮らしについてもっと知ることができた。

「私は洞爺湖周辺で生まれ、ここで育ったので、いつもこの火山とともに暮らしてきました。避難したことも覚えていますが、できる限りここに住み続けるつもりです」と山中さんは語った。「日本は災害が起きやすい国。国内の他の場所に住んだとしても、そこでは地震や洪水の被害があるでしょう。私たちは噴火が起きることをただ受け入れています。そして、私たちは美しい山と一緒に暮らす機会を得ているのです」。山中さんはそう続けた。

洞爺湖で冬の素晴らしいアウトドア活動を楽しむ

有珠山は日本で最も火山活動が活発な地域の一つだが、その周辺は、アウトドア活動の人気スポットであると同時に、温泉に入ってくつろげる場所になっている。この一帯には魅力的な特徴が数多くあり、年間を通じて楽しめる。特に冬期には、40キロ北にある人気の高いニセコのようなスキー場までわざわざ足を延ばさなくても、雪に覆われた北海道の自然を体験することができる。

もしスノーシュートレッキングで思い浮かぶイメージが、寒く遠くの深い雪の中を歩く、経験豊富なアウトドア派向けのレジャーであったとしても、仕方のないことかもしれない。私が持つイメージはそうだった。そのため、ガイドの江川さんが昭和新山の麓を巡るスノーシューツアーに連れて行ってくれたとき、私はやや不安だった。実際には、(私のように)スキーを履くとほとんど立ち上がれない人にとってさえ、驚くほど簡単なことが分かった。

また、ガイド付きのツアーに参加すれば、見逃していたかもしれない細部にも気付くことができる。雪の中に10数センチほど沈んだシカの足跡やはるかに軽量な何か(おそらくエゾリス)が残したかすかな足跡を見ることができた。山の麓に生い茂る新しい森でほぼむき出しになっている数々の枝からは、初めは何の情報も得られないように思えたが、江川さんの説明を聞いたおかげで、柳の黄色の色合いが目立ち始めた。

雪原を歩く中で、語り継がれるべき人間の物語があることも知った。昭和新山ができた当時、地元の郵便局長を務めていた三松正夫さんは、昭和新山誕生の経緯を詳細に記録し、その貴重なデータと図表はその後、日本における火山学の基礎づくりに役立った。信じられないことに、三松さんはその後、昭和新山を購入したという。

スノーシューツアーが終わると、今度はさらに楽な活動だ。標高733メートルの有珠山の頂上近くまでロープウェーに乗った。山頂では、山の外周を巡る遊歩道を歩いたり、コーヒーを飲みながら景色を楽しんだりすることができる。冷たい風が吹く中、私たちは洞爺湖と昭和新山を一望する景色を楽しんだ後、もう少し高い地点まで歩き、銀沼火口を見学した。この火口は、1977年の噴火でできた火口のうち最大のものだ。

この一帯の地形は噴火によって何度も変わったが、銀沼火口がそのうちで最も顕著な変化であることはほぼ間違いない。草木が見当たらないこの火口は、ジェームズ・ボンドの映画に登場する悪役の秘密の隠れ家につながる入り口のようで、中心からは煙が細く不気味に立ち上り、その上には有珠山の幾つかのギザギザした尾根がそびえている。しかし、江川さんが取り出した77年以前の山頂の写真に写っていたのは、現在とは驚くほど異なる光景だった。それは、草木と花でいっぱいの高山の草原にあるハス池のそばで、家族連れがピクニックを楽しむ様子だった。

有珠山が育んだ文化

有珠山や洞爺湖の周辺で入植が始まったのは、知られている限りでは紀元前3800年で、定住主義と精神性が確立された縄文時代の後半のこと。洞爺駅の近くにある入江・高砂貝塚からは、縄文時代後期の人々がシカなどの哺乳類を捕まえ、ニシンやメバル、貝類を取り、骨や角から道具を作っていた様子が分かる。

「洞爺」という名前はアイヌ語で「湖」を意味する。江川さんは「アイヌ語は伝統的に書き言葉ではありません。アイヌ民族にとって重要な場所や物を表すために使われる、非常に実用的な言語です。アイヌ民族は自分たちが使わない草や、使わない植物の部位には名前を付けません。その代わり、もし植物の根が実用的なのであれば、根だけに名前を付けるかもしれません」と説明する。

慈覚大師円仁が800年代、有珠に阿弥陀如来像を安置する建物を造ったのが、現在の有珠善光寺の始まりと伝えられている。境内を案内してくれた住職の妻、木立真理さんによると、有珠善光寺は多くの寺院と同様、長年の間に再建や改修を経たが、多くの人々の生活に欠かせない存在となってきた。

木立さんは「徳川家斉公が1804年、北海道南部に蝦夷三官寺の建立を命じました。厚岸国泰寺、様似等澍院、そして円仁が800年代、ここ有珠で最初に阿弥陀如来像を安置したのと同じ場所に建った新しい寺院、有珠善光寺の三つです」と説明。さらに、「家斉公には三つの目的がありました。それは、南下政策で北海道の領有権を主張しかねないロシアに対するけん制、内地から来て北海道で亡くなった幕府の役人や労働者を供養する場所を造ること、そしてアイヌ民族への仏教の布教でした」と続けた。

木立さんが指摘するように、幾つかの展示品は、宗教的迫害を逃れて内地からやって来た17世紀の「隠れキリシタン」の物語を伝えている。木立さんは「ここには、幕府が禁教令を出した後、キリスト教の教えを密かに実践しなければならなかった長崎出身の労働者たちが持ち込んだ織部石燈籠があります。土台には聖母マリアを観音菩薩のように刻んであり、上部の膨らみは十字架に似せるようにかたどったものです」と話した。

≪執筆者プロフィール≫
ロブ・ゴス Rob Goss
イギリス南部デボン出身。20年近く日本在住でライターとして活動。記事はトラベルだけではなく、日本の人・文化等についても多く手掛け、ナショナル・ジオグラフィック・トラベル誌、BBCトラベルといった国際的旅行メディアからブリティッシュ・エアウェイズ機内誌、オメガ、トヨタ自動車といったグローバル企業の雑誌・パンフレットまで幅広く寄稿。日本の知られざる魅力・観光地を世界に発信することを生きがいとしている。

※この記事は、英国出身のトラベルライター、ロブ・ゴス(Rob Goss)氏の「北海道アドベンチャートラベル」体験記を基に日本語訳し再構成しています。

原文の英語記事はこちらでご覧いただけます。
https://en.visit-hokkaido.jp/adventure-travel/traveltrade-press/news/20240306_mt-usu/
https://en.visit-hokkaido.jp/adventure-travel/traveltrade-press/news/20240306_toya-snowshoe/
https://en.visit-hokkaido.jp/adventure-travel/traveltrade-press/news/cultures-nurtured-by-mount-usu/

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