2024年02月28日
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インタビュー「島での自然体験を日常の幸せにつなげたい」- ATアクティビティーガイド・外崎雄斗さん
北海道の小さな島に一家で移住し、「アクティビティーガイド」として来島者に豊かな海や森の自然体験を提供している外崎雄斗さん。島での暮らしからガイドの仕事のやりがい、そして気になる収入面まで、ガイド業のリアルを聞いた。
■「縁で漂流した」小さな離島
「流れに身を任せていたら、漂着したような感じなんですよ。ご縁ですね」
札幌市出身の外崎雄斗さんは、北海道の奥尻島へ移住した経緯についてそう言ってニコッと笑う。外崎さんは、2018年に奥尻ゲストハウス「imacoco(イマココ)」を開業。傍ら、島唯一のアウトドアガイドとして活動している。
2021年に「北海道アウトドアガイド」資格を取得し、23年に「北海道アドベンチャートラベル(AT)ガイド」制度のうち「アクティビティーガイド」(自然ガイド分野)の認定を受けた。
人口約2200人の少子高齢化が進む小さな離島に、外崎さんが導かれた「縁」とは。
外崎さんの人生は、大学時代の旅に大きな影響を受けている。携帯電話をあえて持たないパックパッカーとして半年間、東南アジアを放浪した。
「旅で出会ったたくさんの人々との交流を通じて世界の広さを知り、『人生ってめちゃくちゃ自由じゃん!』と実感したんです。それから僕はふたつの夢を持ちました」
■旅で抱いたふたつの夢
夢のひとつは、教師。「人生の自由さを伝えたい」。大学卒業後、釧路商業高校で5年間、英語教師を務めた。「教え子が10人以上、バックパッカーになったんですよ。保護者に怒られちゃって」と外崎さんは笑う。
もうひとつは、ゲストハウス。「自分が体験したように旅人たちが交流できる場所をつくりたい」と、人事異動のタイミングで教職をやめる決断をした。そして場所や物件を模索するなか、運命的な偶然が起こった。
「親父が釣りで通っていた奥尻島の民宿がそろそろ閉業しそうで後継ぎを探していると、大学時代に聞いた話をふと思い出して、親父に『あの民宿、どうなったの?』と久しぶりに尋ねたんです。すると、『先週、閉まったよ。自分が最後の客だった』と言うんです。勝手に“呼ばれているな”と思いました」
直感的に、民宿を引き継ぐことを決めた。20代半ばのときに結婚した妻の香菜さんに、島に関する“プレゼンテーション”を行ったうえで、決断から2カ月後に子どもたちとともに移り住んだ。
■外崎家族のファンも移住!?
いよいよオープンした「イマココ」は、奥尻高校が全国から募集する「島留学生」の受け入れから始まり、その後、少しずつ一般の宿泊客も訪れるようになった。
島好き、ゲストハウス好き、SUP(サップ)や島名物のウニ目当て、など宿泊者の目的はそれぞれ。一度泊まると温かい雰囲気を放つ外崎ファミリーのファンになり、リピーターが増えていった。
実は、「イマココ」をきっかけに10人ほどがこれまでに島へ移住しているという。隣接地に開設したシェアハウスに暮らしながら、島内で働いている。
「ただ泊まれればいいというのではなく、外崎家族のいる『イマココ』の空間に行きたいと思ってもらいたいんです。マニアックなお客さんになると、うちの子どものお遊戯会に一緒に行きたいからと来島する方もいますよ(笑)」
■ローカルな体験にこだわり
ガイドは、高い透明度を誇る海でのSUP・カヤック体験と、ブナの原生林が広がる「奥尻21世紀復興の森」を歩くツアーがメインだ。外崎さんは移住後に森や植物の勉強を始め、自身が感じた「自然のつながり」のおもしろさを伝えている。
「例えば、奥尻島のウニがおいしいのはブナ林のおかげでもあるんですよ。僕のガイドを聞いていれば、島での食の味わい方も変わるというふうに持っていきたいんです」
奥尻島ならではのローカルな体験へのこだわりはATガイドらしい。
「山菜を取ったり、魚を釣ったりして島民がいつもしているように調理して、島民と一緒に食卓を囲んでいただく。観光で来ていきなりローカルなところに入っていくのはなかなか難しいですが、僕がいることでいきなりそういう体験ができるようにしたいです」
■島暮らしの幸せとガイドのリアル
7年目となる島での暮らしについて、「無駄が削ぎ落とされ、幸せを感じる核となるものはすべてある」と表現する外崎さん。ガイドの仕事にも充実感を得ている。
「責任と覚悟を持っていい仕事ができれば、お客さんは喜んでくれて、地元にも貢献できるし、自分も楽しい。仕事としてもすごく可能性があると思っていて、例えば、僕は7〜9月の3カ月働けば、1年間暮らしていけるんですよ。こういう話は、ガイドを目指す若者には夢を与えられるかもしれませんね」
日々勉強を続けている。外国人旅行者の受け入れのため英語力アップに取り組み、最近、「マインドフルネス」の講師資格も取得した。「今、この瞬間に心を向ける」という状態のマインドフルネスと島の自然環境を組み合わせたガイドに今後、力を入れていく。
「島での体験によって、家に帰ってからも日常の捉え方が変わり幸福度を上げられたら、なによりのお土産になると思うんです。都会に揉まれてそんな感覚が薄まってきたらまた来てくれたらいいなって」
【プロフィール】
外崎 雄斗(そとざき・ゆうと)
北海道アドベンチャートラベルガイド(自然/アクティビティーガイド)・奥尻島観光協会副理事長・マインドフルネスプロ講師。1988年、北海道札幌市生まれ。サッカー少年から大学時代はバックパッカーで東南アジアを巡る。人力俥夫も経験。大学卒業後は5年間の高校教師を経て、2018年に奥尻ゲストハウス「imacoco」をオープン。アウトドドアガイドとして、奥尻島の自然の魅力を案内している。
《聞き手・記事制作》時事通信社 札幌支社
※アドベンチャートラベルガイドについてはこちら
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