2026年03月27日
NEWS & TOPICS
インタビュー「旅行者と地元の方がつながった瞬間がうれしい」 –北海道ATスルーガイド・東海林和歌子さん
インバウンド向けのツアーガイドとして北海道各地を案内している東海林和歌子さん。自身も好きな「食」をテーマにしたツアーをはじめ、多彩なガイディングを手がける彼女に、ガイドを目指したきっかけをはじめ、仕事で大切にしていること、今後の展望を聞いた。
■旅行者と地元をつなぐ「チューブ」
「私が間に入ることで、ゲストと地元の方がつながったときにすごく喜びを感じますね。ふたりが楽しそうに会話をして、ハッピーな様子を見ているとうれしくなります」
北海道でインバウンド向けのツアーガイドをしている東海林和歌子さんは、仕事のやりがいについてそう語る。
フリーランスとして活動し、旅行者の要望に合わせて道内各地を案内している。数時間のはしご酒ツアーをはじめ、ゲストの旅程にすべて同行するかたちでの周遊、富裕層向けのゴルフ場やスキー場のガイドなど、「同じツアーはあまりありません」(東海林さん)というほど多様な旅のガイディングを担い、リピーターも少なくない。

また、2023年創設の「北海道アドベチャートラベルガイド」制度のうち、「スルーガイド」に認定されている。スルーガイドは、旅行者や各分野専門のアクティビティーガイド、旅行会社などの橋渡し役だ。
東海林さんは自身にとってのガイドの仕事を「チューブのようなもの」だと表現する。ツアーでブルワリーや蒸留所、工芸店といった地元の店を訪ねれば、店主や作り手のこだわり、情熱を通訳して伝え、ゲストの好奇心に応える。両者が意思疎通して笑顔になり、人と人とをつなぐ役割が果たせたとき、大きな達成感を得られるという。
■きっかけはコンビニでのアルバイト
そんな彼女をガイド人生に導いた原体験があった。
道内の大学を卒業後、飲食店の店長やチョコレートメーカーの営業職として働いていた東海林さんは2013年、夫の転勤に伴い仕事をやめて東京都内に移り住む。コンビニエンスストアでアルバイトを始めると、来店する外国人たちと接する機会があった。
「日本に不慣れな外国人の方が困りごとを尋ねてきたんです。ゴミ出しのやり方とか宅配便の不在票を持ってきて『これはどうすればいいの?』とか。ちょっとしたことなんですけど、教えてあげるとすごく喜んでくれました。自分もそれがとてもうれしくて。当時、自分がやりたいことがわからなくなっていた時期だったので、『私でも役に立てるかも』って純粋な喜びを感じたことを覚えています」
コンビニでの経験がきっかけとなって、英語学習を“再開”。じつは東海林さん、一度英語での挫折を経験がしていた。大学で英語学科へ入るも、周囲には自分より英語の堪能な学生が多く、「ポキッと折れてしまった」と振り返る。
大学時代に身につけた基礎とともに、ガイドになることをモチベーションにみっちり勉強し、2019年に全国通訳案内士(英語)の資格試験にみごと合格を果たす。そしてアメリカの旅行会社のガイドとして日本各地のツアーを経験したのち、2022年に帰郷。現在、北海道を拠点にガイドをしている。
■ガイドにとって言語より大切なこと

しかし、ガイドの仕事が初めから順調だったわけではないという。資格を取ったものの、やはり“実戦”では苦労の連続だった。
「最初の頃はゲストのネイティブ英語を機関銃のように浴びて、『やばい……全然わからない』というときもありましたし、『あなたの英語は理解できない』と言われたりして、いちいち落ち込んでいました。でも、それをバネにして、頑張ろうという気になりました。資格を取るときよりもガイドをし始めてからのほうがずっとたくさん勉強していますね」
英語については「まだまだ勉強中です」と語る東海林さんだが、一方でガイドにおいて言語よりも大切なことを感じているという。
「完璧な英語が話せたところでゲストの方が満足してくれるかといえば、そうでもないなと感じています。開き直りでもあるですが(笑)。ゲストにとって一生に一度かもしれない旅行で一緒に楽しい思い出をつくるためには、流ちょうな言葉よりも、ゲストに合った提案だったり、感動してもらったり、人とのつながりをつくったり、そういう工夫のほうがガイドとして大事だと思うようになりました」

ATWS2025に参加した東海林さん(本人提供)
■お酒好きガイドによる「はしご酒ツアー」

ガイドの仕事は、旅行者を迎え入れる前からすでに始まっている。訪れる予定のスポットを下見し、導線をはじめ駐車場やトイレの場所をチェック。「何をどう紹介するか」というガイディングのシナリオを作り、ツアー全体の“物語”も意識する。しかし、事前に用意した流れにただこなしていくだけではいいガイディングはできないという。
「準備していた話を全然しないときもあります。たとえばアイヌ民族の歴史にすごく興味がある方もいるし、それほど関心がない方もいる。一度、ボールを投げてみて反応がよければもっと深く話しますし、ゲストが他のことに夢中になっていたらいったん様子を見て、飽きた頃に話してみるとか。様子を見ながら変えています」
もともと飲食や食品関連の仕事をしていた東海林さんにとって、「食」は得意分野だ。とくに自身も好きなお酒に関するツアーは東京にいた頃からメインのひとつとして続けている。札幌市内の居酒屋やバー数軒をめぐるこはしご酒ツアーは、所定の店に加えて2軒目からは東海林さんおすすめの店に立ち寄り、外国人旅行者に大人気だ。

はしご酒ツアーの様子(本人提供)
個人・団体ともに対応しているはしご酒ツアーは、1人から数人の少人数の旅行者も多く、そんなときこそ会話力が問われてくる。東海林さんはどんなコミュニケーションを意識しているのだろう。
「観光地をめぐるわけでもなく、居酒屋でずっと一緒にいるので楽しい会話を続けてないといけませんよね。私は、よくゲストの方の自慢を聞くようにしています。彼らの息子・娘の話だったり、家や庭の話とか本当にいろいろ。あと、海外のゲストは私個人の話を聞きたがることが多いように感じていて、北海道や日本について説明するときもただ情報を伝えるのではなく、パーソナルな経験を含めて語るように心がけています」
■北海道の「食」を伝えたい

さまざまな形態の旅行のガイドを手がける東海林さんは、ツアーの種類を問わず、ゲストを楽しませるため、コンフォートゾーンから飛び出す「アドベンチャー」を大切にしているという。
「自分が心地よいと思うところから出ること、“ちょっと無理してもらうこと”がアドベンチャーだと思っています。それはハードなアクティビティではなくてもいいんです。外国人旅行者がひとりでは絶対行かないような雑居ビルの地下のバーに入ってみたり、『え!』と思うような食べものに挑戦してもらったり。私たちにとっては普通だけど、イカの塩辛を乗せたジャガイモや骨付きのコマイを食べるのも彼らにとってはちょっと勇気がいる。そういう小さな冒険の仕掛けを用意できるようにいつも考えています」
身近な冒険になりうるという「食」。東海林さんは北海道のアドベンチャートラベルにおいて、「食」は大きなポテンシャルを秘めていると感じている。自身のガイドとしての展望も含めて次のように説明する。
「大自然がある北海道は、とにかく食べものがおいしい。農業、酪農、漁業といった食に関する産業がとても身近なところにあります。今後、そうした一次産業や食の体験を絡めながら、時間にゆとりをもって道内をめぐり、食の魅力を伝えるツアーができたらいいなと思っています。そのために私自身のガイド力ももっと磨いていきたいです」
最後にインバウンド向けガイドの魅力を伺うと、「私は海外に住んだ経験がないので、いろいろな国の方に文化や歴史を教えてもらって本当に楽しいです。自分が学ぶためにガイドの仕事をしているともいえますね」と東海林さん。
旅行者とともに過ごす時間は、東海林さんにとってもアドベンチャーになっているようだ。
【プロフィール】
東海林 和歌子(しょうじ・わかこ)
北海道アドベンチャートラベルガイド(スルーガイド)・全国通訳案内士(英語)。北海道沙流郡日高町豊郷生まれ、恵庭市在住。大学卒業後に、飲食店店長や食品メーカー営業職を経て、2019年に全国通訳案内士の資格取得。東京都を拠点にアメリカのツアー会社のガイドを務めたのち帰郷し、2022年からは北海道でガイド活動をしている。ガイド内容は、はしご酒ツアーやゴルフ場・スキー場案内、プライベートラグジュアリーツアーなど多岐にわたる。ビール、日本酒、ウイスキーなどお酒好き。
《聞き手・記事制作》時事通信社 札幌支社
※アドベンチャートラベルガイドについてはこちら
- Home
- NEWS & TOPICS
- インタビュー「旅行者と地元の方がつながった瞬間がうれしい」 –北海道ATスルーガイド・東海林和歌子さん