2026年03月31日
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インタビュー「天空の湖で、世界の旅人を迎える」 ― 北海道ATガイド・然別湖ネイチャーセンター 島田知明さん&李育臻さん
大雪山国立公園内の標高810mに位置し、“天空の湖”とも称される然別湖。そのほとりで世界中の旅人を迎えているのが「然別湖ネイチャーセンター」のアクティビティーガイド、島田知明さんと李育臻さんだ。然別湖20年のキャリアを持つベテランと、3言語を自在に操る台湾出身ガイド。二人にとって然別の魅力や、仕事のやりがい、互いに尊敬するところを聞いた。
■「机の前にじっとしていられなかった」
札幌市で生まれ育った島田知明さん。ガイドになる前は、ごく普通のサラリーマンだった。「黙って机の前に座っていることができなくて」と、島田さんは笑いながら振り返る。
子どもの頃から外で遊ぶことが大好きで、高校時代は山岳部に所属。社会人になってからも休日はアウトドアに費やした。そんな島田さんにとって、然別湖ネイチャーセンターとの出会いは、先輩からの「来る?」という何気ない誘いだった。
「最初から『ここしかない!』と決めて来たわけじゃないんです。正直、飽きたら別の場所に移ればいいかなと思っていました。でも、20年経っても飽きないんですよね」

都会でネクタイを締める生活から一転し、2006年より然別湖でガイド一筋。飽きない理由はシンプルだ。「自然が美しいから」。同じ場所でも「毎日、違うものが見えてくる」と島田さんは目を輝かせる。
都会でネクタイを締める生活から一転し、2006年より然別湖でガイド一筋。飽きない理由はシンプルだ。「自然が美しいから」。同じ場所でも「毎日、違うものが見えてくる」と島田さんは目を輝かせる。
「つい一昨日も、エゾリスをクマタカが後ろから突然襲いかかる瞬間を見たんですよ、目の前で。ここで長く過ごしているからこそ、そんな場面に出会えるんです。しかも、いつやって来るかわからない。飽きる暇がないんです」
■台湾から参加したボランティアをきっかけに

一方、李育臻さんの出身は台湾。日本が好きでワーキングホリデーを夢見ていたが、なかなかビザが取れずにいた。そんなとき、友人から教えてもらったのが冬限定イベント「しかりべつ湖コタン」のボランティア募集だった。
然別湖が完全に結氷する冬期のみ、湖上に氷と雪で造る“幻の村”が現れる。李さんは「台湾には雪がないので、そんなおもしろい体験はできなくて。『絶対に参加したい!』と観光ビザで来たのが最初です」と声を弾ませる。
2017年の冬、李さんは世界中から集まったスタッフとともに、氷上露天風呂やアイスチャペルといった氷と雪の建設作業に参加した。台湾へ戻った後、幸運にも「然別湖で働いてみない?」と声をかけられ、翌年から同センターでガイドの通訳として働き始めた。
やがて「然別湖の魅力をもっと伝えたい」という想いから、李さんは島田さんと同様に、北海道知事認定の「北海道アウトドアガイド」資格で2分野(自然・カヌー)を取得。2023年に始まった「北海道アドベンチャートラベル(AT)ガイド制度」では、「アクティビティーガイド」(自然ガイド)の分野で認定される数少ない外国人ガイドでもある。
「台湾も漢字なので読むのは何とかなるんですが…」と笑いつつ、「自分の国にはない動植物を日本語で覚えて、お客さんに中国語や英語で説明するのがいちばん難しい」と話す。
「亜熱帯の台湾と亜寒帯の然別では、生きている動物も植物まったく違います。例えば“ナキウサギ”みたいな固有種ばかり(笑)。自分の翻訳が本当に合っているか常に調べます。先輩ガイドや詳しいお客さんに教わることも多いですよ」
■「心を読む」ガイドと、「心が折れない」ガイド

そんな背景の異なるガイド二人にとって、お互いの“尊敬ポイント”を聞いてみた。島田さんが李さんを頼もしく思うのは、「お客さまの気持ちを読む力」だ。
「国が違えば、何をおもしろいと感じるかの“ツボ”も違いますよね。僕らには肌感覚でわからない台湾のお客さんの感覚を、エルモ(李さんの愛称)がうまく汲み取って、時間配分や話す内容を調整してくれる。団体ツアーになると、もう『あとはよろしく!』と安心して任せられます」
一方、李さんは島田さんの魅力について「チャーリーさん(島田さんの愛称)は“心が折れない”んです。どんなに大変な状況でも絶対にイライラしたり怒ったりしない。だから、どんなお客さんが来ても対応できるんですよ」と話す。すると島田さんは「たぶん性格なんでしょうね」と笑う。
ニックネームで呼び合う軽快な掛け合いからも、互いへの信頼と、お客さんに愛されるおおらかな包容力が伝わってくる。
■世界中から届く「ここに来て良かった」

では二人にとって、ガイドの仕事のやりがいとは何だろう。
島田さんは「好きなことが仕事になっているのは本当にラッキーなこと」と実感を込めたうえで、こう続ける。
「自分とは違う感性のお客さんから“新しい発見”をもらえる楽しさがあります。例えば、オーストラリアのお客さんに森の生まれ変わりの話をしたら、『ここは燃えない森なんだね』と驚かれたことがあるんです。向こうでは“森は一度燃えて次につながる”という前提がある。同じ景色でも前提が違うと驚き方が変わる。そこがおもしろいですね」
李さんの喜びは、旅人からの「ここに来て良かった」という言葉だ。
「北海道では日本語しか通じない場所も多いので、『自分のわかる言葉で参加できて良かった』『ただの観光じゃなくて北海道を深く知ることができた』と言われると、ガイドをやっていて良かったなと思います」

湖面に浮かぶカヌー(然別湖ネイチャーセンター提供)
■いちばん好きな時間 ―早朝6時のカヌー
日本屈指の透明度19.5mを誇る然別湖で、とりわけ人気が高いのがカナディアンカヌー。その中でも二人が「最高の時間」と口を揃えるのが、夏の早朝6時のツアーだ。
日の出直後、風がなく、湖面が静まり返る時間。そこにカヌーを浮かべると、空と山と自分の姿が一面に映り込む。
「まるで鏡のようですよ。圧倒的にきれいです」と島田さん。
李さんも「夏の間でいちばん好きな時間です」と微笑む。
夜には、満天の星や静かな闇を味わうナイトウォッチングも行っている。また、原生林や苔が美しい森を散策するガイドウォーク、生き物の視点で森を滑空するエアトリップ、氷が解け始めるわずかな期間限定の融氷ウォークなど、四季を通じて多彩な体験が揃う。
当日は予約が埋まっていることも多いため、「ぜひ事前にご連絡を」と島田さん。ロングステイでふらりと訪れる海外客も増えており、「今後はオーダーメイドのプランも増やしていきたい」と展望を語る。
「カヌーも森歩きも、お客さんのペースや興味は本当に多様。“自分たちだけのリズム”で、より然別を楽しんでもらいたいですね」

カヌーでくつろぐ李さん(本人提供)
【プロフィール】
然別湖ネイチャーセンター(公式サイト)
大雪山国立公園の南端に位置する然別湖を拠点とした自然体験施設。国内有数の透明度を誇る湖と原生的な森林環境をフィールドに、カヌー、カヤック、ガイドウォーク、エアトリップ、冬季の「しかりべつ湖コタン」、スノーモービルなど、四季を通じた多様なアクティビティを提供している。北海道知事認定アウトドアガイドが在籍し、安全管理と環境保全に配慮したアドベンチャートラベルを国内外に発信している。
島田知明(しまだ・かずあき)
北海道アドベンチャートラベルガイド(ネイチャーガイド/カヌーガイド)、北海道アウトドアガイド(自然・カヌー)。1974年札幌市生まれ、札幌市育ち。高校時代は山岳部に所属。北海道工業大学(現・北海道科学大学)卒業後、土木技術者として企業に勤務。2006年、然別湖ネイチャーセンター(株式会社北海道ネイチャーセンター)に入社。2018年に北海道アウトドアガイド資格を取得し、約20年にわたり第一線で活躍している。
李育臻(リー・ユージェン)
北海道アドベンチャートラベルガイド(ネイチャーガイド)、北海道アウトドアガイド(自然・カヌー)。台湾・高雄市生まれ、高雄市育ち。台湾・台北私立中國文化大学卒業。世界各地を旅する中で、2017年に「しかりべつ湖コタン」のボランティアに参加し、然別湖の自然に魅了される。2018年、然別湖ネイチャーセンター(株式会社北海道ネイチャーセンター)に入社。2023年に北海道アウトドアガイド資格(自然)、2025年に同資格(カヌー)を取得。3か国語を操り、台湾からの観光客をはじめ国内外の旅行者から親しみを込めて「ELMO(エルモ)」と呼ばれ活躍している。
《聞き手・記事制作》時事通信社 札幌支社
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