2026年03月30日
NEWS & TOPICS
インタビュー「ワイルドな山の魅力を伝えたい」 – 北海道アドベンチャートラベルガイド・近藤英輝さん
北海道・ニセコ地域のシンボルである羊蹄山を拠点に登山ガイドや山小屋経営を手がける近藤英輝さん。東京都生まれの近藤さんはどのように山の世界に導かれていったのか。彼の半生に迫るともに、北海道の山の魅力と厳しさを伝える日々の仕事について聞いた。
■ニセコの象徴・羊蹄山を知り尽くすガイド
北海道南西部にたたずむ羊蹄山(標高1898m)。富士山のごとく均整の取れた山容から「蝦夷富士」の名で知られ、作家・登山家の深田久弥による「日本百名山」に選出されている。夏季には多彩な高山植物が花を咲かせ、登山者に大人気の山だ。
そんな名峰の西麓の登山口近くにたたずむ蝦夷富士小屋は、登山者をはじめ、近隣の自然で釣りやサイクリングといったアウトドアを楽しむ人びとの憩いの場となっている。この山小屋を営んでいるのが、登山ガイドとしても活動する近藤英輝さんだ。

近藤さんは現在まで30年近く羊蹄山の山頂直下に立つ避難小屋の管理人も務め、情報提供や遭難救助などさまざまな登山者対応をしてきた。その豊富な経験や技術を生かし、近年は羊蹄山やニセコ連峰を中心としたガイド活動にも力を注いでいる。
「山小屋や避難小屋でお客さんから『山を案内してください』という要望を多くいただいて、それなら資格を取って本気でやってみようと。北海道の山はワイルドで本当にすばらしいので、自分のスキルをもっと高めて伝えていきたいという思いがあります」
そう話す近藤さんは、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅡ)に加え、2025年には「北海道アドベンチャートラベル(AT)ガイド制度」の「アクティビティーガイド」(山岳)に認定された。
まさに“山男”の近藤さんだが、もともと東京都出身。どのような経緯で、ガイドや山小屋の仕事をするようになったのだろうか。そのストーリーをひも解いていこう。
■ニセコでスキーとスイス留学で山の世界に興味
大学進学で初めて北海道の地へ足を踏み入れた。子どもの頃から動物が好きで獣医になりたいと道内の大学の獣医学部を志したが受験はうまくいかず、もうひとつの目標だった教師になるべく教員免許が取れる同じ大学の酪農学部へ進学した。
「北海道の自然に漠然とした憧れがありました」と振り返る近藤さんは、スキーをしにニセコへ出かけると、スケールの大きい山の姿に魅了された。さらに大学時代には休学して、スイスのグリンデルワルトへ留学。スイス屈指の名峰であるアイガー山麓の小さな村で、山小屋を経営する家族のもとでホームステイした。
「ホストファミリーのお母さんは山小屋を切り盛りしていて、お父さんはチーズをつくっていました。現地でそんな家族の様子を見ながら、さまざまな山の仕事のお手伝いしました。その山小屋に宿泊していた日本人の山岳ガイドと話をする機会もあって、いろいろな人の影響を受けるなかで、山への憧れが大きくなったのかなと思います」
大学卒業後も道内に住み続けたいとの思いがあったが、当時は就職先が少なく、一時、教員として三重県の高校に就職した。だが、北海道での暮らしを忘れられず、すぐにニセコにカムバック。そして将来について考えていた頃、後継者を探していたスキー場近くのロッジを引き受けることに。ニセコで出会った妻・真実さんとともに20年以上、ロッジを経営していた。
ちなみに、真実さんも山好きな家族のもとで育ち、夫婦の新婚旅行は世界最高峰のエベレストでトレッキングだったという。その後、子どもが生まれたことをきっかけに一念発起。豊かな子育て環境も考慮し、自宅も兼ねた山小屋を2012年にオープンさせた。本州とは違って北海道には民間営業の山小屋がほとんどなく、思いきった挑戦だった。

エベレストでトレッキングをする近藤さんと真実さん(提供写真)
■ガイドで意識する「小さなサプライズ」と「安全第一」
現在、夫婦で蝦夷富士小屋を切り盛りしながら、夏山シーズン中には近藤さんが避難小屋へ上がり、かたわらガイド活動にも精を出す。まさにホームマウンテンといえる羊蹄山の見どころについて近藤さんはこう説明する。

「蝦夷富士と呼ばれていますが、荒涼とした富士山とはまた違って、さまざまなお花が咲いて本当に美しい。高山植物が好きな方にはすごくおすすめの山です。山頂は、火口をグルッと一周歩くこともできます」
山頂の絶景、道中の自然、火山の大迫力……登山者はそうした羊蹄山の表情を楽しもうと訪れる。参加者の要望に沿った行程やガイディングでツアーを組み立てられるのも、羊蹄山を知り尽くした近藤さんだからこそ。また、山の上に営業小屋がない北海道ではガイドの力量がいっそう試される。
「たとえば北アルプスだったら営業小屋がいくつもあってお金を出せば飲食できますが、北海道ではガイド自身がそういったサービスを提供するケースが多いです。僕もコーヒーを淹れたり、ちょっとしたサプライズができるように心がけています。何もないのも北海道の山のよさ。どう魅力的に伝えられるかはガイド次第です」
一方で、避難小屋管理人としての数多くの遭難救助経験から、「安全第一」をどんなときも譲らない。
「羊蹄山は山岳遭難が多く、救助ヘリの出動回数は道内トップレベルです。死亡してしまった登山者を搬送した経験もあります。山のよさを知ってもらうのはもちろんですが、同時に山の厳しさを伝えていかなければなりません」
■羊蹄山、ニセコの魅力を世界へ発信
今回のインタビュー時、蝦夷富士小屋では近藤さんの息子たちが学校のテストに向けて勉強中だったが、じつは近藤さん自身も今、英語学習に励んでいる。

というのも世界屈指のスキーリゾートであり、各国から旅行者が訪れるニセコ地域にあって、外国人のガイドツアーも今後増やしたいと考えているからだ。
「海外の方が山小屋に宿泊することもありますので、英語で対応しています。ガイドとしても外国人を案内していますが、山の魅力を詳しく説明するため英語力アップが必要。精進していきます」
もうひとつ、近藤さんが取り組むのが羊蹄山の自然保護だ。2010年に登山者らでつくる自然保護団体(現・羊蹄山ファンクラブ)を立ち上げ、行政と連携しながら、登山道整備や清掃活動、外来種駆除を行っている。
羊蹄山で幅広い仕事を手がけ、麓に暮らす近藤さん。まさに羊蹄山は彼の人生を彩っているともいえるだろう。
「長らくこの山を見てきましたが、刻一刻と変化する自然は全然飽きません。自然はどんなときも怠けず動いていてすごいですよね。自然に携わることが好きなので僕にとってここでの一瞬一瞬が癒しです」
家族、そして各地から訪れる人びとと一緒に、近藤さんは大自然を味わい、楽しみながら日々を送る。
【プロフィール】
近藤英輝(こんどう・ひでき)
北海道アドベンチャートラベルガイド(山岳/アクティビティガイド)・羊蹄山避難小屋管理人・蝦夷富士小屋オーナー・日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ。東京都福生市生まれ。北海道江別市の酪農学園大学に進学し、在学中にスイス・グリンデルワルトへ留学。卒業後は高校教師を経験し、再び北海道へ戻り、ニセコ地域のロッジを経営。1999年から羊蹄山避難小屋の管理人を担い、2012年には蝦夷富士小屋を創業。山小屋運営とともに近年はガイド活動や自然保護にも力を注ぐ。
《聞き手・記事制作》時事通信社 札幌支社
※アドベンチャートラベルガイドについてはこちら
- Home
- NEWS & TOPICS
- インタビュー「ワイルドな山の魅力を伝えたい」 – 北海道アドベンチャートラベルガイド・近藤英輝さん