2025年02月07日
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地域社会と観光が融合する場所 ― 岩見沢市北村地区
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道央に位置する岩見沢市。石狩川の東岸に広がる同市北村地区は豊かな農業の歴史や息をのむような自然の美しさ、強い地域の絆を持つ小さな町だ。近代化とそれに伴う人口動態の変化という課題に悩まされてきた北村は、持続可能な観光とコミュニティーの再生を目指し、地域一丸となって取り組んでいる。その歩みは伝統と革新を融合させ、その景観と周辺地域に新しい息吹を吹き込んでいる。
衰退は避けられないのか
岩見沢市北村地区ではかつてから農業が盛んだったが、札幌をはじめとする石狩川下流域を襲う洪水に対処するため 、2012年に開始された重要インフラプロジェクトである遊水地面の造成により、農業は代償を払う結果となった。洪水を防ぐため、豪雨時には遊水地に水を引き込むことになるが、一方でこの事業により定住しながら耕作可能な農地面積が縮小。その結果、農業の継続が困難になった地元農家が岩見沢市中心部などに移住。北村の人口が減り続ける一因となった。
人口流出は物理的な現象であるだけでなく、文化的な影響ももたらす。若い世帯が離れたことで、北村はそのアイデンティティーのかなり大きな部分を失い、コミュニティーの高齢化と不透明な未来が残された。しかしこの衰退への流れの中でも、北村に残ることを選んだ住民は自分たちの町が忘れ去られてしまうことを許さなかった。その住民の一人で、北村地域イノベーション推進協議会事務局長の島さんは、人口減少や経済問題に対処するため、インバウンド観光を中心に据えた地域活性化事業を立ち上げた。当初、農山漁村に宿泊し食事や体験を楽しむ「農泊」の推進を目指し、2020年に農林水産省により承認された この事業は、新型コロナウイルス感染症の拡大のため遅れはしたものの、その後再開され、前向きな結果が得られている。
地域の観光振興に努める「北村地域イノベーション推進協議会」事務局長の島一雄さん。
持続可能な観光のビジョン
ピンチをチャンスに変えようという動機に駆り立てられた北村の住民たちは、地域経済を活性化させるための革新的な戦略を受け入れた。彼らは、農業の伝統を守りながら村のユニークな魅力を届けられる産業として、観光に答えを見つける。島さんは「地域を活性化させるためにアドベンチャートラベルを展開すると決め、試験的なツアーを企画しました」と説明。「最近では、シンガポールからの訪問客グループが小麦畑や作物を乾燥させる施設を見学するなど地域に密着した体験を実施しています。彼らにとって初めての経験で、非常に高く評価されました」と語った。
北村の観光は、花畑や地元の祭りといった季節ごとの魅力を中心にして控えめに始まったかもしれないが、持続可能性を優先し町に残った農家との協力を進めることが有意義でかつ長期的な効果をもたらすために重要だと分かった。
島さんの最も重要なプロジェクトの一つに、観光客が農家の暮らしを体験できる農業体験がある。この取り組みでは、野菜の収穫、伝統農法の習得、豆腐などの生鮮食品を使った食事、温泉のある地元のホテルでくつろぐ時間といった体験を地元の人たちと協力して提供している。これらの体験は訪問客を地域や住民と結び付けており、この地域は人々が「ただ通過するのではなく、一泊する」場所に生まれ変わっていると島さんは付け加えた。
大豆に水を加えて挽いた「生呉(なまご)」を絞り豆乳を作る、地元の農家と外国人観光客。
観光を通じたコミュニティーの強化
北村の観光は、地域経済に活力を与えるだけでなく、地域の絆を強化するツールにもなっている。この事業の中心は地元の農家。農地の管理者であるだけでなく、文化のアンバサダーとして豊かな知識と伝統を訪問客に伝えている。
北村の活性化に向けた取り組みは、若い世代にとっても町を新たな視点で見直すきっかけになっている。島さんの取り組みは、中学生と共に作ったクッキーなどの地場産品を宣伝するほか、ほかにもジンギスカンの伝統を再生するため、羊を遊水地に移すといった革新的なアイデアを模索している。「北村の20年後を考える会」のような地域のNPOが主催する子どもたちへの環境教育は、コミュニティーに対する意識と関与を高めるのに貢献している。
コミュニティーの再建とその未来に積極的に貢献を果たせるチャンスが刺激となり、かつて都市でのより良い機会を求めて北村を離れた人たちが、村に戻り始めている。こうした人たちは新たなものの見方とエネルギーをもたらし、北村の伝統と革新的なアイデアの橋渡しに一役買っている。一方、村に残ることを選んだ人たちは、地元の豊かな遺産、近代的な発展、そして新たな目的意識のユニークな形での融合に価値を見いだし、自分たちの故郷を再発見しつつある。
ビニールハウス内にてミニトマトの収穫体験をする外国人観光客。
北村の成功の鍵
岩見沢北村地区の歩みはまだまだ続くが、その進歩は国内外で同様の課題に直面している他の農村地域に貴重な視点をもたらすだろう。経済と社会を活性化する手段として観光を受け入れることで、北村はそのアイデンティティーを守りつつ、新たな成長の機会を創り出そうとしている。
その成功の鍵は住民たちの協力の精神にある。たくましさと独創性によって最も困難な障害さえも克服できると示している。遊水地の造成を通じてであれ、地元の農家との革新的なパートナーシップを通じてであれ、北村はコミュニティー主導型の解決策が持つ力をはっきりと表す。
北村の観光が成長を続ける中、持続可能な未来に対する町のビジョンも進化し続けている。旅行客は地元の豊かな伝統を大切にし、未来を大胆に切り開いていくこの町とつながるよういざなわれる。それは本物の体験を求めている旅行客にとって、絵のように美しい風景をはるかに超える魅力。この活気ある町を訪れるたびにそのたくましさと再生の物語の続きを書き加えて町を守ることに一役買うことができる 。田畑の広がる町を歩き、季節の祭りに参加する以外にも、おもてなしの温かさを楽しむだけで、北村がなぜ守る価値のある宝なのかがすぐ実感できるだろう。
田畑が広がる「北村遊水地」の予定地。遊水地完成後も農業は継続される予定だ。(札幌開発建設部提供)
《聞き手・記事制作》時事通信社 札幌支社
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