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2025年02月07日

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より環境に優しい未来への架け橋を目指して―大雪エリア 旭川・美瑛

より環境に優しい未来への架け橋を目指して―大雪エリア 旭川・美瑛 thumbnail

北海道の中心に位置する大雪山国立公園の西側、上川盆地の広がる地域は「大雪エリア」と呼ばれ、旭川市をはじめとする1市8町で構成される。大雪エリアは豊かな文化遺産にも恵まれ、息をのむような素晴らしい大自然である大雪山への玄関口としての役割を果たしている。しかし単なる観光地にとどまらず、持続可能な取り組みを通じて積極的に未来を形づくろうとしている。

旭川の本当の魅力とは

大雪エリアの中心である旭川市、都市の利便性と自然の美しさが見事に調和する。訪れる人すべてにとって魅力的な街だ。芸術を楽しみたい人には、旭川市彫刻美術館がある。地元にゆかりのある彫刻家、中原悌二郎を記念して開設された彫刻専門の美術館。建物は明治35年に建設され国の重要文化財にも指定されている。地元の食べ物を味わいたい人にとっても、ご当地ラーメンの「旭川ラーメン」や地酒がある。そして近郊には魅力的なスキー場や温泉、景観豊かなハイキングコースが広がり、年間を通じて国内外から観光客を引き付けている。

しかし旭川の本当の魅力は他にある。それはにぎやかな大都市にはないゆったりとした空気と、訪れる人たちを歓迎しようとする地域社会。旭川には落ち着いた雰囲気が流れ続ける。より地域の文化を感じ、気取らない体験をしたい人たちにとって理想的な訪問先だ。

大雪カムイミンタラDMOが管理する旭川市のスキー場「カムイスキーリンクス」では、秋季限定でEバイクを貸し出しており、ゴンドラ頂上から山頂までサイクリングを楽しむことができる。

大雪カムイミンタラDMOの役割

観光は大雪エリアの経済において重要な役割を果たす。しかし一方でコントロールできないほど観光客が急増した場合に予想される問題を 、行政と住民はともに 強く認識している。近年、北海道だけでなく日本各地の人気観光地でオーバーツーリズムの問題が浮上。環境悪化や過密状態、地元住民と観光客の間のあつれきが起きている。過大な負担をかけることなく地域社会を強くする観光とはどのようなものだろうか。

戦略の鍵は地元住民のウェルビーイングに重点を置き、暮らしとのバランスを保つことにある。大雪エリアを管轄する観光地域づくり法人、大雪カムイミンタラDMOはこの持続可能な観光戦略において極めて重要な役割を担う。地域特有の文化や自然にあるアイデンティティーを尊重し「シビックプライド」を醸成しながら、オーバーツーリズムを引き起こさない観光モデルの構築に注力する。

「(地域が)無理しないことが重要」と同DMOの佐藤副理事長は語る。地域の利害関係者との協力を通じて、各観光事業が住民の生活向上と、環境保全のための長期的な取り組みの促進につながるよう努めている。

大雪カムイミンタラDMOの佐藤副理事長(左)と嘉屋専務(右)。

住民や自然に過度な負担をかけず、訪問客を引き込む

絶景が広がる大雪山国立公園を含む大雪エリアでは、ハイキングや野生動物の観察、温泉やスノースポーツなど多彩なアクティビティを楽しめる。観光が地域にとって前向きなものであり続けるために 、大雪カムイミンタラDMOは 訪問客と地元住民が有意義な交流を生む体験を重視する。マスツーリズムのみを対象とするのではなく、訪問客と地元住民の相互の尊重と理解に貢献する、より小規模で個人の好みに合わせた観光も推進している。こうした体験型観光を通じて、訪問客が地域に対する理解を深めるとともに、観光収入が確実に地元の企業や住民を直接支えることになる。

10月、紅葉が見頃を迎える美瑛町の「白金青い池」。ハイシーズンには駐車場の空きを待つ車で混雑するなどオーバーツーリズムの影響も見られる。

環境への影響を最小限に抑えるため、大雪エリアでは責任ある観光の実践を続けている。
2022年4月、美瑛町は「ゼロカーボンシティ」を目指すことを宣言し、脱炭素化に積極的に取り組んできた。環境省は、国立公園において二酸化炭素(CO2)排出量の実質ゼロを目指す「ゼロカーボンパーク」として、2024年6月に美瑛町を登録。町では旅行客に景観の保護と保全への協力を呼び掛けている。

水筒を持参することの推奨や電気自動車(EV)充電設備の設置、電動キックボードの貸出など、簡単でありながらインパクトのある行動がこの取り組みの中心だ。大雪山国立公園では、多言語の看板を備えたペットボトル専用のリサイクル回収ボックスが設置されており、環境に配慮したこの運動に誰でも参加できるようにしている。また、旅行客は森林再生や森林保全の取り組みへの参加により、長期的な環境の向上に貢献できる。このような取り組みは地域の生物多様性に対する理解を深める役割を果たし、大雪山の自然の美しさが将来の世代に向けて守られることになる。

美瑛町の観光案内所に置かれる貸出用電動キックボード

地元住民と観光客の架け橋に

観光は地元の文化に誇りを持ち、その伝統を称え、保存する機会としても活用されている。その一つとして地元産の木材を使用した「旭川家具」がある。日本を代表する家具ブランドの一つとしても知られる。旭川デザインセンターでは、家具や工芸品のデザインの中心地として長きにわたる高い評判を支えている。訪問客は作りの精巧な家具を鑑賞したり、伝統的な木工技術を学んだりするほか、工芸ワークショップに参加することもできる。こうした取り組みにより、旭川の文化的アイデンティティーは強固なまま維持され、観光客にとって独特の魅力となっている。

旭川デザインセンターでは冬に、大雪カムイミンタラDMOによる雪板制作ワークショップが開催される。旭川の家具職人と共に自分だけのオリジナル雪板を作ることができる。

大雪エリアの観光理念の中心には、訪問客は地域住民の暮らしと競合するのではなく、それを補完すべきだという考え方がある。これを達成するため、住民との開かれた対話を奨励している。注目すべき取り組みの一つとして旭川市国際交流センター(AIC)の「AICボランティア」プログラムが挙げられる。このプログラムでは、住民がホームステイや文化交流のため海外から少人数の旅行客を受け入れている。こうした親密な交流を通じて、相互理解と友情が育まれ、異文化間の障壁は取り除かれ、住民と訪問客の双方に永遠の思い出が残る。

持続可能な観光の実践に焦点を合わせつつ、地元の受け継がれた資産である文化や自然を守り、地域住民のニーズを優先することで、関わるすべての人に恩恵をもたらす観光モデルを構築した。大雪エリアは自然に触れ合い地域の文化に浸りながらも、この訪問が地域社会への積極的な貢献になったと思える旅行先になる。

《聞き手・記事制作》時事通信社 札幌支社

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