2025年01月23日
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インタビュー「北海道のサイクリングは世界屈指の魅力がある」 - 北海道アドベンチャートラベルガイド・ サイクリングフロンティア北海道 石塚裕也さん 秋元謙一さん デイヴィッド・バーネットさん
貸し出し用の自転車が並ぶ「サイクリングフロンティア北海道」のオフィスと代表の石塚さん
札幌市のサイクリングツアー会社「サイクリングフロンティア北海道」は、ガイドの高い技術とホステピタリティーが評判となり、世界各国のサイクリストから依頼を受けている。道内を知り尽くした所属ガイドたちに話を聞き、北海道のサイクルツーリズムの可能性を探っていこう。
世界各地に常連がいるガイド集団
インバウンド増加を受け、近年、ニーズの高まりを見せるサイクリングツアー。2009年に創業した「サイクリングフロンティア北海道」は、早くから外国人サイクリストを受け入れてきたガイド集団だ。
所属ガイドは、元プロロードレーサーで創業者の石塚裕也さん、創業初期からガイドを務める秋元謙一さん、そしてイギリス出身でサイクリング歴40年超えのデイヴィッド・バーネットさん。
3人とも、2023年に始まった「北海道アドベンチャートラベル(AT)ガイド制度」の「アクティビティーガイド」(サイクリング)に認定されている。
現在では自転車大国の台湾を中心として世界に常連客がいる。道内各地を熟知したガイドが、数泊の短期滞在から1週間を超える長い日程まで、変幻自在に組み立てるサイクリングツアーは好評だ。リピーターからは、「おまかせ」のオーダーも多いのは信頼の証だろう。
では、「サイクリングフロンティア北海道」は、どのようにサイクリストの信頼を勝ち取ってきたのだろうか。彼らの歴史を遡ってみよう。
国内外で活躍したプロからガイドに挑戦
2001年、ジャパンカップ・サイクル・ロード・レースに出場する石塚さん(本人提供)
代表の石塚裕也さんは札幌市で育った。子どもの頃から自転車好きで、中学時代には野宿しながら自転車で北海道一周。自転車での旅の途中に見かけたロードレースのプロ選手たちの姿が強烈に印象に残り、自身も高校から自転車競技を始めた。石塚さんは、原点となった体験を懐かしむ。
「『ツール・ド・北海道』へ向け合宿をしていたプロチームだと思うんですが、彼らがものすごいスピードで僕を追い越したんです。“なんだあれ! かっこいい”と感動しました。ちょうどその頃、『ツール・ド・フランス』もテレビ中継していて、“俺も出たい!”と近所の自転車屋へ駆け込みました」
高校時代はインターハイで準優勝し、北海道工業大学(現・北海道科学大学)に進学すると、実業団チームとプロ契約して活動。大学在学中にイタリアへも渡り、約2年間、世界のエリートが集うヨーロッパのレースを経験した。
北海道大学大学院を修了後も日本や台湾でレース活動を続けたが、29歳のときに交通事故に巻き込まれて大ケガを負い、競技から退いた。不運な形で引退を余儀なくされたが、石塚さんは「成績が出せずモヤモヤしていた時期。不謹慎ですが、次の人生へ踏み出すきっかけになりました」と、前向きに捉えた。
引退翌年、札幌市で始まったガイド付き自転車タクシー「ベロタクシー」のドライバーに応募。乗客への観光案内の仕事を通じて、ガイドのおもしろさを知ったという。「あまり自信はなかったんですけど、やってみると“意外いけるじゃん、俺”って。すごく楽しかったんです」と振り返る。
このとき、ベロタクシーの同僚だったのが、秋元さんだ。札幌市出身の秋元さんは「自転車少年がそのまま大人になった」と語るほど根っからのサイクリスト。アマチュア大会にも出場していて、ふたりは出会ってすぐに意気投合。「日当を握りしめて札幌の街でよく飲み歩きましたよ」と石塚さんは笑う。
ベロタクシーのドライバーを務める石塚さん(本人提供)
アルバイト生活を経て訪れた転機
台湾人観光客とのサイクリングツアーの様子(石塚さん提供)
そして、石塚さんは30歳のときに「サイクリングフロンティア北海道」を創業。ただ、1年目の客はわずか5人。数年間は、自転車整備を学びつつ、アルバイトを掛け持ちして生活をつないだ。
「現実的にはお先真っ暗でしたが、なんとかなるっていう根拠のない自信がありました」と石塚さんは振り返る。
潮目が変わったのは2012年だった。前年の東日本大震災を受けて香港のチャリティー団体が復興支援の一環でサイクリングイベントを北海道で企画。プロ時代の縁で石塚さんがガイドに抜てきされた。ツアーには多くの香港メディアも同行し、大きな反響があった。
この頃から行政もサイクリングツーリズムに着目し、各地の旅行業者やメディアなどを招いて観光誘致を図る「ファムトリップ」を開催。ファムトリップでもガイドを務め、北海道の自転車観光の魅力を発信するとともに、台湾やタイ、シンガポールなどアジア各国とのパイプを築いていった。
創業翌年からスタッフとして関わった秋元さんに加え、ツアー参加者が増え会社が軌道に乗ってきた頃、バーネットさんもガイドに参加した。バーネットさんはイギリスでの会社員時代に北海道を訪れ、自然の美しさに惚れ込んだ。一時帰国したのちに再び来日して以来、30年以上北海道で暮らす。
子どもの頃から自転車旅を始め、数々のレースに出場してきたサイクリストのバーネットさん。「ツール・ド・北海道」で通訳をした経験もあり、石塚さんは選手時代から旧知の仲だった。
“ガイドはエンターテイナー”というこだわり
自転車と北海道をこよなく愛する3人の個性的なガイドが集まった「サイクリングフロンティア北海道」。石塚さんは、「自分たちも楽しんでガイドすることを心がけています」と話す。ガイドの仕事のこだわりについてはこう語る。
「ガイドの仕事ってポジティブの連鎖なんです。ガイドの僕らもお客さんも自転車が好きで、お客さんがハッピーなら僕らもハッピー。特別なことは何もしていません。一つ一つの仕事を誠実に、一人一人のお客さんに楽しんでもらうエンターテイナーの意識を持ってガイドをしています」
最後に、北海道のサイクルツーリズムの魅力や可能性について3人に聞こう。
秋元さんは「都市のすぐそばにすばらしいサイクリングフィールドがたくさんあるというところはなかなかないです」と語る。札幌や新千歳空港近くの裏道を巡る“絶景グルメツアー”が秋元さんのイチオシだという。
またバーネットさんは、「地域によって景色や気候、食、歴史、文化が違って、うまく組み合わせると幅広いコンテンツがつくれます。車がほとんど通らない美しい道がいくらでもある。可能性は無限大」と話す。
日本におけるサイクルツーリズムの課題は、自転車にやさしい環境づくりだ。自転車先進国のヨーロッパや台湾などに比べて、日本の交通はまだまだ自動車中心だという。
石塚さんは「自転車文化を醸成できれば、北海道は世界一のサイクリングリゾートになれます。自転車に乗る人が増えれば、文化も変わる。北海道は、いい方向に変わってきていると思います」と手応えを感じている。
プロフィール
サイクリングフロンティア北海道
2009年に元プロ自転車選手で日本サイクリングガイド協会(JCGA)公認サイクリングガイド マスターの石塚裕也さんが創業。北海道全域のサイクリングツアーを中心に、冬季のワカサギ釣りなどのフィッシングツアーやレンタサイクルも手掛ける。石塚さんに加え、所属する秋元謙一さん、デイヴィッド・バーネットさんのサイクリングガイド3人は北海道アドベンチャートラベルガイド(アクティビティーガイド/サイクリング)に認定されている。
石塚裕也(いしづか・ゆうや)
北海道アドベンチャートラベルガイド(アクティビティーガイド/サイクリング)・日本サイクリングガイド協会(JCGA)公認サイクリングガイド マスター・サイクリングフロンティア北海道代表。1978年、室蘭市生まれ、札幌市育ち。中学時代に自転車で北海道一周。高校から本格的に自転車競技を始め、北海道工業大学(現・北海道科学大学)在学中にイタリアへ渡り、ヨーロッパでレースを経験。北海道大学大学院1年のとき、実業団チーム「キナン・マルイシ」に入団し、その後国内外でプロとして活動。2009年にツアー会社「サイクリングフロンティア北海道」を創業。
《聞き手・記事制作》時事通信社 札幌支社
※アドベンチャートラベルガイドについてはこちら
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