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2025年01月21日

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インタビュー「北海道で“最高の一日”を過ごしてもらいたい」 ー 北海道アドベンチャートラベルガイド・奈良 亘さん

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世界中の山や秘境を旅し、現在は「アクティビティーガイド」として北海道の大自然を国内外の旅行者に紹介している奈良亘さん。日本人初の記録を持つ登山家でもある奈良さんの破天荒な半生をたどりつつ、ガイドとして大切にしていることを聞く。

ガイド人生のきっかけとなった記事

「お前、採用だあ!」

その言葉で奈良亘さんのガイド人生が始まった。大学4年のとき、世界各地の山と秘境のツアーを専門とする札幌市内の旅行会社「ノマド」に就職希望を出した。面接を終えて外へ出ると、オフィスの窓がガラッと開いて、社員が奈良さんにそう叫んだのだ。

「ノマドの創業メンバーのひとりが同じ大学の卒業生で、学内の掲示板にインタビュー記事が載っていたんです。僕はそれを読んで、“これだ!”と思いました。未知の世界へ行けるなんて夢のような仕事だって。すぐに問い合わせると求人募集はないと言われたんですが、諦められず、OB訪問を口実に面接にこぎつけ、ついに採用してもらいました」

懐かしそうに語る奈良さんは、今ではキャリア30年近いベテランガイドだ。札幌市内でゲストハウス「サッポロッジ」を経営しながら、豊富な経験値を駆使し、バックカントリースキーや登山のガイドを行う。各国から訪れる旅行者に北海道の大自然の魅力を伝えている。

2023年に創設された「北海道アドベンチャートラベル(AT)ガイド制度」では、「アクティビティーガイド」(山岳・バックカントリースキー)に認定。世界最大の旅行ガイドブックにも「頼れるガイド」として紹介された。

そんな北海道の“自然の達人”といえる奈良さんの半生をひも解いていこう。

“貧乏旅”で南米最高峰に登頂

奈良さんは札幌市出身。家族や親族がアウトドア好きで、幼い頃から北海道の山・川・海へ出かけた。小学6年のときには、親に内緒で友だちと北海道一周の旅をしたというから驚きだ。

「子どもの頃にドキドキワクワクしながら旅した経験は僕の原点です。鉄道で終点まで行くと、さらに向こうの景色が見たくなって、見よう見まねでヒッチハイクしたり、野宿したりして進むわけです。“この先に何があるんだろう”って好奇心を原動力に旅をしている点では、今も当時も変わりませんね」

大学生になると、偶然が奈良さんを山に誘った。ゼミナールの希望の提出日に寝坊し、選択肢なく入ったゼミの教員が登山好きだった。初めての本格的な登山は、授業の一環で訪れた大雪山。「植物、雪、岩の3色のコントラストを見てとにかく“すげぇ”と思いました」と奈良さん。社会人山岳会の門を叩き、取り憑かれたように山へ足を運んだ。

ちなみに奈良さんは、高校時代から器械体操にも取り組み、全道インカレで優勝している。体操と登山で鍛えた肉体を持って、卒業前には南米最高峰のアコンカグア(6961m)に挑んだ。登山前にペルーで強盗に遭うアクシデントがありながら、持ち前の突破力と交渉力で“貧乏旅”を続け、単独登頂を成し遂げた。「登山も人との出会いも食べものも、未知と出会うなかで自分の世界が開けました。僕の財産となった旅です」と奈良さんは笑う。

人気ガイドから南極越冬隊へ

「ノマド」にてツアーガイドを務める奈良さん(右)(本人提供)

「ノマド」では、ツアーの企画から参加者募集、現地でのガイドなどを一貫して自身で手がけ、国内外の山や秘境を案内した。憧れの先輩ガイドたちから技を学びながら、ユーモアのあるガイディングを武器に、すぐに常連客を増やしていった。

20代後半のとき、山への挑戦の思いがふくらみ、今度は北米最高峰のマッキンリー(現デナリ/6190m)に仲間と登頂。山頂からスノーボードで滑り降りた。マッキンリー山頂滑走は日本人初で、当時多くのメディアがその記録を報じた。

長期休暇が必要になるため辞表を提出していたが、帰国後、会社にはまだ奈良さんの机があった。14年間にわたって「ノマド」で働きながら、会社と交渉して毎年1カ月ほどの休暇をもらって自身の旅も続けた。

マッキンリー(現デナリ)でスノーボードを滑る奈良さん(本人提供)

ツアー企画をつくるなかで、南極の昭和基地で観測を行う「南極越冬隊」の存在を知った。奈良さんは「次のステージへ進みたい」とガイドメンバーに応募し、2年越しで合格。38歳のときに会社を辞めて南極へ渡り、時にマイナス50℃にもなる極寒の世界で約1年半、研究者の調査をサポートした。

「南極越冬隊」時代の奈良さん(本人提供)

北海道の魅力を伝える「ベースキャンプ」

帰国後の2014年12月に弟とともに「サッポロッジ」をオープンし、先日10周年を迎えた。山小屋のような雰囲気の建物は、北海道の木材をふんだんに使って仲間と手づくり。ダイニングバーでは、地産地消にこだわった料理を提供している。

「世界中を歩き回ってきましたが、今度は生まれ育った北海道のすばらしい場所をガイドしたいと思いました。そのためには活動拠点となる“ベースキャンプ”が必要だと、ゲストハウスを始めました。宿のオヤジになって、国内外の旅行者や地元の人々みんなと旅を語りたいと考えたんです」

秘境を旅してきた奈良さんだが、生まれ育った札幌の街には人一倍の愛着がある。「札幌ほどいい街はないですよ」と自慢げに語る。

「僕は遊び場が自然の中なので、住むのは街中がいいんです(笑)。旅から帰ってきて、すすきののネオンを見るとホッするんです。札幌は歴史や文化、芸術が交わる都市でありながら、車で1時間も走ればエゾシカやヒグマが暮らす大自然がある。世界中を見ても、そんな街はなかなかないです」

「最高の一日」を過ごしてもらいたい

真冬になれば、パウダースノーを求めて北海道を訪れる世界中のスキーヤー・スノーボーダーが「サッポロッジ」を訪れる。一方、自身のガイド業の傍ら、「ノマド」で同僚だったガイドとともにアウトドア会社を立ち上げ、積丹町では夏季を中心に多彩なアクティビティーを展開している。

そんな奈良さんのガイドのこだわりとは?

「お客さんに“今日一日最高だったな”と思ってもらうことを目指しています。最高の言葉が僕の“心の貯金”になってやりがいにつながっているんです。最高な体験を提供するためには、日頃からいろんな分野を学び続けて、引き出しを増やすことが大切。あと最後はやっぱりユーモアですね!」

破天荒さとユーモアが織りなす奈良さんの人生について、すべて記すには紙幅が足りない。続きはぜひ「サッポロッジ」で。

プロフィール

奈良 亘(なら・わたる)
北海道アドベンチャートラベルガイド(山岳・バックカントリースキー/アクティビティーガイド)・日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドステージⅠ・スキーガイドステージⅡ。1973年、札幌市生まれ。札幌大学在学中に南米最高峰のアコンカグア(6961m)単独登頂。卒業後は世界の山と秘境のツアーを手掛ける旅行会社「ノマド」に就職し、14年間、ガイドを務める。2011年から約1年半、第53次南極越冬隊に参加。2014年に札幌市内にゲストハウスとダイニングバーの「サッポロッジ」をオープン。北海道内で登山やバックカントリースキーのガイドを行うほか、積丹町でアウトドア会社を経営。 Facebook Instagram

《聞き手・記事制作》時事通信社 札幌支社

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