温泉でもっと健康に〜現代型の湯治場・豊富温泉から
温泉と長らく関わってきた日本人の習慣の一つに、温泉地に一定期間滞在して病気の治療などをする「湯治」があります。
例えば江戸時代に大名たちは「湯治願い」を提出し、2~3週間のまとまった休みをもらって温泉地に向かいました。北海道内でも、松前藩の領主が知内温泉などに湯治に出かけた記録が残っています。
大名だけではなく一般大衆も農閑期や漁閑期に長期で温泉地での滞在を楽しみ、春から秋までの労働の疲れを癒やしました。
時代を経るにつれて温泉地はレジャーの対象へと役割を変えてきましたが、今でも湯治のための場所として選ばれている温泉地が道内にあります。
それが道北の豊富温泉です。
豊富温泉は冬の漁閑期にわざわざ離島からも湯治客が来る、道北を代表する温泉地でした。その後皮膚疾患を患う方の間で症状が軽減されると評判になり、今でも毎年全国から多くの方が訪れています。
中核となるのは町営の日帰り温泉施設「豊富町ふれあいセンター」。一般用と湯治用の2つの浴室がありますが、営業開始前の湯治浴室の湯船にはオイルフェンスが張られ、豊富温泉ならではの濃厚なオイル成分が体感できます。湯治客はそれらの温泉の恵みを思い思いの方法で利用します。
- 豊富町ふれあいセンター
- 湯治浴室入り口
湯治の方へのサポートは行政からも受けられます。湯治客のニーズに応えるため、2009年にはふれあいセンター内にコンシェルジュデスクを設置。湯治客が長期滞在するための宿泊施設も整備してきました。 また、夏休みなどの休暇だけでなく通年で湯治したいという町外の子どもたちのために、教育委員会が最大3年間の「湯治留学制度」を設けています。2020年度は6名の児童生徒がこの制度を利用し、学校に通いながら温泉で療養しています。
加えて、2017年には厚生労働省により道内初の「温泉利用型健康増進施設(連携型)」に認定されました。これは所定の手続きを踏めば、温泉療養のための施設利用料・往復交通費が医療費控除の対象になるという制度です。
この認定により、コンシェルジュデスクには温泉利用指導者と健康運動指導士の資格を持つスタッフが常駐することになりました。保健師と看護師の資格を持つ方もいて、この制度を使って湯治する方ならいつでもそれらの専門スタッフから自分に合った入浴法や運動方法などのアドバイスを受けることができます。
なお、2019年度に全国でこの制度を利用した方のなんと半数が、豊富温泉での申請でした。その数は認定施設内でも突出していて、療養目的でこの場所を選ぶ方が多いようすを伺うことができます。
- 夏期に運動指導に使われる自然観察館
- 冬期に運動指導をするスペース
そのようにして、2009年に2名で始まったデスクは現在コンシェルジュと相談員を合わせて6名になりました。湯治全般についての相談だけでなく、長期滞在に必要な町内での仕事や移住の相談、イベントの開催など、多岐にわたるサポートをしています。すでに10年以上の知識と経験があるだけでなく、スタッフの多くが湯治経験者であることもポイントです。
上記のようなさまざまなサポートを受けつつ、湯治希望者は湯治の経験者から実際的なアドバイスを受け、新たな人間関係を築きながら温泉街で生活しています。
「湯治」という言葉に一種の修行のような、毎日温泉に浸かるだけの楽しみのない風景をイメージする方がおられるかもしれませんが、江戸時代に湯治場が滞在サポートを受けながら入浴・参詣・観光・交流を楽しむ場だったように、豊富温泉も前向きな温泉療養ができる場所となっています。
- 営業開始前の湯船の様子
- コンシェルジュデスク
現在はアトピー性皮膚炎や尋常性乾癬等の皮膚疾患の改善のために温泉を求めてくる方が多いものの、湯治場としての役割、さらに温泉利用型健康増進施設としての役割は特定の症状や疾患に悩む方だけのものではありません。
上記のような制度やサポートを活用しつつ、もっとたくさんの方が温泉で健康になってほしい、健康な方は温泉でリフレッシュしてさらに元気になってほしい。コンシェルジュデスクにいる方々は、そう願いながら業務を続けています。