温泉の泉質あれこれ

温泉施設に行くと、温泉分析書の適応症(いわゆる効能)部分を読んでいる方をよく見かけます。
これから入る温泉がどんな泉質でどんな特徴があるのか、何に効果的なのかを知りたいという方は多いはず。それを知っておけば、これからの温泉選びにも役立つかもしれません。

このことについて語るのに欠かせない温泉分析書の内容は、平成26 年にルールが改訂されて
「一般的適応症」~温泉で身体を温めることによる効果
「泉質別適応症」~その温泉の成分・泉質による効果
この2つが分けて書かれるようになり、内容も医学的根拠があるものだけになりました。
それらを踏まえたうえで10 の泉質の特徴について簡単に説明しましょう。

1)塩化物泉

体全体を塩分のベールで包むため、特に高い保温効果があり、「熱の湯」とも呼ばれます。塩化物泉の中で特に成分量が多いものは「塩化物強塩(泉)」と呼びます。

2)炭酸水素塩泉

肌の上で石鹸のような成分を作り、肌を滑らかにします。その効果で美人の湯と呼ばれることが多く、あがった後のさっぱり感で「清涼の湯」とも呼ばれます。

3)硫酸塩泉

塩化物泉と同様の保温効果があります。また、肌にうるおいを与え、血流を良くして治りを早めるため「傷の湯」とも呼ばれます。

4)酸性泉

強い殺菌力があるため、細菌性の皮膚トラブルに効果的。近年「ピーリングの湯」と呼ばれることも増えてきました。刺激が強いため、気になる方はあがる前に体を流しましょう。

5)硫黄泉

2つの型がありますが、硫化水素型(ガス性の硫黄)は特に皮膚から吸収されやすく、心臓に負担を与えずに血管を広げて血流を良くします。強い殺菌力もあり、いくつか酸性泉と共通の適応症が書かれています。

6)含鉄泉

分析書を見て驚く方がいると思いますが、飲用で「鉄欠乏性貧血」(≒マイルドな鉄剤)と書かれるほかは適応症がありません。逆に言えば誰でも楽しめ、時間の経過とともに色が変わることが多いため、目にも嬉しい温泉です。

7)含よう素泉

平成26年に復活した泉質です。含鉄泉と同じく飲用での適応症しか書かれていませんが、よう素はうがい薬や傷薬の成分として使われていて、殺菌作用を期待できます。

8)二酸化炭素泉

炭酸ガスが溶け込んでいて肌に無数の気泡がまとわりつく「泡の湯」です。炭酸ガスは毛細血管を広げて血流を良くするため、体をポカポカにします。

9)放射能泉

ラジウムやラドンを規定値以上含む温泉で、気体であるラドンを吸い込むのが正しい利用の仕方です。まだ解明されていない部分が多いですが、痛風や関節リウマチに効果があるとされています。

10)単純温泉

突出して多い成分はありませんが、上記9つの成分のどれかがマイルドに含まれる優しい万人向けの泉質で、名湯と呼ばれることも多いです。pH8.5 以上は「アルカリ性単純温泉」になります。

11)温泉法上の温泉

ここで最後に触れておきたいのが、上記の10泉質に当てはまらない温泉です。

温泉には「ただの地下水か温泉かを決めるハードル(温泉法)」と、それより少し高い「温泉のうち療養に役立つものを分類するハードル(鉱泉分析法指針)」の2つがあるため、その狭間で「法律上は温泉だけれど、療養泉ではない」、つまり泉質名がつけられないものが存在します。
泉質名がつかなければ、温泉分析書の適応症もすべて空欄になります。

適応症に何も書かれていないと「効果がない温泉」だと勘違いする方がいるかもしれませんが、入浴用に加温すれば「一般的適応症」と同様の温熱効果が期待できますし、あと一歩で泉質名がつけられるほどの成分量があることも多いため、何も効果がないとは言えません。

そして、温泉の効果は成分によるものだけではありません。

温泉地の環境、温泉の色・香り・肌触り・温度、その日の体調など、さまざまな要素が組み合わされて感じるのが、その温泉ならではの効果です。
そしてせっかく良い温泉にいても、そこで不満やダメ出しばかり考えるのはもったいない。おおらかな気持ちで「いい湯だった、これは効きそう!」と笑顔で思えるような心の状態も、その効果を高めるカギです。

温泉に恵まれた北海道には、さまざまなタイプの温泉があります。その中から、泉質ごとの特徴も踏まえつつ、自分にぴったりな温泉地を見つけてください。