ジンの力で地方創生に挑む「積丹スピリット」の物語

ジンの力で地方創生に挑む「積丹スピリット」の物語

札幌市の西に位置する積丹町は、積丹岬に代表される雄大な自然と、豊富なウニの産地として知られる町です。しかし人口減少が続き、今では約2,000人と50年前の約3分の人口になっています。そんな積丹町で生まれた革新的なビジネス「積丹スピリット」が、地域創生の新たなモデルとして注目されています。その代表取締役・岩井宏文さんのチャレンジの物語をご紹介します。

未利用農地から始まったプロジェクトの挑戦

農村開発を専門とする岩井さんが積丹町から依頼を受けたのは、広大な未使用農地を活用した新規ビジネスの立案でした。「単に土地を企業に提供するだけでは不十分」と気づいた岩井さんは、複数の専門家を招いて農地の活用法を検討し始めました。


その時、一人の林業専門家が口にした「ここの気候はスコットランドに驚くほど似ている」という言葉が転機となります。この一言から、岩井さんはジン製造の可能性を見出しました。スコットランドはジンの本場です。「地元の原材料を使った、ここにしかない独自のジンが造れる」と確信し、自らジン製造に挑戦することを決意したのです。


ジンについては素人同然だった岩井さんは、スコットランド、ロンドン、そして日本全国のジン蒸留所を訪ね歩きました。ジンの歴史と蒸留工程を学ぶ中で、「土地の風土と地元産の素材を最大限に活かす」というビジョンが徐々に形成されていきます。専門家たちと協力し、試行錯誤を重ねることで、造りたいジンの姿がより明確になっていきました。


積丹の森から集めた130種類のボタニカル

ジンの風味を決める最大の要素は、基本となるジュニパーベリー(針葉樹の実)以外に加えるボタニカル(香り付けに使う植物)です。積丹には、ジュニパーの近縁種・ビャクシンが自生していました。


岩井さんたちのジン造りの出発点は、「積丹の森を具体的に理解し、天然成分全般を知ること」でした。その結果、約130種類のボタニカルを集め、最終的に約30種類に厳選しました。この精緻な選別プロセスが、積丹スピリットを「ここにしかないジン」にした根本的な理由です。


ジンの主な風味として選ばれたのは、北海道に自生する「アカエゾマツ」です。岩井さんの狙いは「森を散歩している時に感じる香りを、ジンで表現したかったんです」と明確でした。この思いを実現できるのが、アカエゾマツの濃厚で樹脂質な香り。この深みのある香りを基調に、ラベンダーやオレンジなど花や柑橘系の香りを加えることで、複雑で奥行きのあるジンが完成しました。


こだわりの製造プロセスが生み出すハーモニー

積丹スピリットの蒸留方法は独創的です。それぞれのボタニカルの風味を個別に蒸留してから、最終段階でブレンドを行うという手法を採用しています。手間と時間がかかる分、さまざまなボタニカルの組み合わせを試行錯誤し、最高のバランスを追求することができます。


「町から借用している農地でほとんどの素材を栽培しており、地元の人々や訪問者も蒸留プロセスに参加していただけます」と語る岩井さん。製造から体験まで、地域全体が関わるビジネスモデルが確立されています。


積丹スピリットの顧客構成には、このビジネスの成功が明確に表れています。日本では珍しく、女性客が約60%を占めているのです。日本酒やビールといった低アルコール度数に慣れた日本では、高アルコール度数のジンは一般的ではありません。しかし、地元の植物が生み出す独特で繊細な風味が、女性をはじめとする幅広い層に支持されています。


ジンの風味の複雑な違いから積丹の自然を感じる

2017年の創業以来、積丹スピリットはジンの3つの異なるブレンドを発売しています。各商品は、積丹のボタニカルの多様性と、綿密な選別プロセスの成果を表現した作品です。ショールームでは、これらのジンをテイスティングでき、ジンの風味の違いを体験しながら、積丹の自然について学ぶことができます。


テイスティング方法も多様です。公式にはドライトニックウォーターとのペアリングが推奨されていますが、実際には多くの顧客がジンそのものの複雑な香りと風味をストレートで堪能することを選んでいます。


創生の物語と、その先にある豊かな自然を体験する旅へ

岩井さんたちの次の目標は明確です。「農村開発プロジェクトとしてのルーツを忘れない」という思いのもと、いくつかの新企画が進行中です。


ショールーム内に「植物ライブラリー」を整備する計画があります。ここでは、ジン製造に使用するボタニカルの特性や背景を詳しく紹介する予定。訪問者はジンの製造過程にとどまらず、地元の自然資源について深く学ぶことができます。


さらに注目しているのは「オーダーメイドジン」です。顧客が持ち込んだ好みのボタニカルからオリジナルのジンを製造するというサービスは、植物愛好家とジン愛好家の両者を結ぶ新しい体験になるでしょう。


積丹町を訪れる際は、積丹スピリットのショールームで、森の香りを感じるジンを味わいながら、この町の創生の物語を感じてください。季節ごとに異なる表情を見せる海岸線の絶景、新鮮なウニの味わい、そして地元の人々の創意と工夫が形になった一杯のジン。これらすべてが、積丹町での忘れられない思い出を作り出します。


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