大人の好奇心を満たす旅へ~吉田類の北海道紀行/岩見沢・三笠編
空知のワイナリー巡り
空知の冷涼な気候を生かして、風土に根ざしたワイン造りに取り組むワイナリーやヴィンヤード(ブドウ農場)が増えている。
情熱あふれる生産者を類さんが訪ね歩いた。
Profile
酒場詩人
吉田類(よしだ るい)さん
イラストレーター、エッセイスト、俳人。酒場文化や旅をテーマに執筆活動を続けている。BS-TBSの人気番組『吉田類の酒場放浪記』、全国の低山の魅力を伝える『吉田類のにっぽん百低山』(NHK)などのレギュラー番組の他、NHKラジオ深夜便『ないとガイド~酒のある風景』にも出演。
北海道を愛し、長期滞在する傍ら、HBCテレビ『吉田類 北海道ぶらり街めぐり』で道内各地を旅している姿はHOKKAIDO LOVE!に満ちています。
10R(トワール)ワイナリー
「ワイン造りで大切なのは、テクニックより気持ち。どんなワインを造りたいのか、自分なりのヴィジョンを追い求めなければなりません」
そう話すブルース・ガットラヴさんが代表を務める『10Rワイナリー』は、平成24年(2012)設立の国内でも珍しいカスタムクラッシュワイナリー(受託醸造所)。また受託だけでなく、オリジナルの「上幌ワイン」も製造する他、「ワイナリーを開きたい」という志を持ったブドウ生産者の指導にも力を入れている。
ブルースさんはニューヨーク州ロングアイランド出身。「ここは自分が育った環境に似ていて、とても好きです。まだ空知は若い産地。ワイン造りの歴史が浅い分、自由に挑戦できる。焦らずに少しずつ成長していけばいい」とブルースさん。類さんも「何よりもブルースさんの人柄が魅力的。空知はこれまで以上に見事なワイン産地になりそうだね」と明るい未来を思い描いているようだった。
地中に埋めた甕でブドウを発酵させる、東欧・ジョージアの伝統的なワイン醸造ができる設備も備える。
10R(トワール)ワイナリー
ブドウ農家にワイン造りの場を提供する他、自社畑や契約農家のブドウを使った「上幌ワイン」を醸造。人の手をあまり加えず、ブドウ畑の要素を引き出した味わいに定評がある。
岩見沢市栗沢町上幌1123-10
TEL.0126-33-2770
JR「岩見沢」駅より車で20分
※施設や畑の見学希望は事前に連絡を
山﨑ワイナリー
続いて訪ねたのは、全国のワイン通にもその名を轟かす『山﨑ワイナリー』。平成10年(1998)に当時北海道でほとんど栽培されていなかったピノ・ノワールを植え、平成14年(2002)には酒類製造免許を取得。一貫して自社畑産ブドウ100%のワイン造りを行っている。
「僕たちが目指しているのは、繊細で酸味の穏やかな、エレガントな味わい。そのために、栽培も醸造も人間本位で予定を立てるのではなく、自然の足並みにそろえて、全ての作業を進めています」と、ブドウ栽培を担当する山﨑太地さん。例えば、ブドウの収穫日を決めるのはその前日だ。ギリギリまで状態を見て、ベストなタイミングで収穫する。栽培も醸造も、ブドウを繊細に扱うことが最も大切だという。
「空知の清々しい気候と、美しい風景。ワイングラスの向こうに、その土地の魅力が見えるようなワインを作っていきたいですね」
全国区の名声を得てなお、挑戦に終わりはない。
現在は10haの畑で10品種のブドウを栽培。年間約4万本を製造するが、その9割は直販だ。そのおいしさについついグラスを重ねてしまう類さん。「味に厚みがあるのに飲みやすい。止められないと、いつまでも飲んじゃうよ(笑)」。
収穫間近のブドウ畑を案内してくれた『山﨑ワイナリー』の太地さん。「栽培では何より、ブドウを観察することが大事です」。
山﨑ワイナリー
三笠の土地と気候に寄り添って、高品質なワインを醸造し続ける人気ワイナリー。代名詞的なピノ・ノワールをはじめシャルドネやソーヴィニヨン・ブランなど、25アイテムを製造・販売する。
三笠市達布791-22 TEL.01267-4-4410
10:00~17:00(10月~3月は~15:00)
月~金曜休(冬期は天候により変動)
JR「峰延」駅より車で7分
栗澤ワインズ
KONDOヴィンヤード
できるだけ人の手を介さないこと、自然のありのままの姿を大切にすること。
「畑の中にブドウ以外の多種多様な動植物が育っている方が、自然なあり方だと考えています」
そう語る近藤良介さんが、三笠の達布地区にブドウ畑「タプ・コプ農場」を開き、独立したのは平成19年(2007)のこと。4年後には岩見沢市の栗沢町茂世丑に「モセウシ農場」も開設した。
さらに平成29年(2017)、弟の拓身さん、ナカザワヴィンヤードの中澤一行さんと共に設立した醸造所『栗澤ワインズ』では、東欧・ジョージアの伝統的な醸造法を採用。土中に埋めた素焼きの甕(クヴェヴリ)で、自然の力を借り発酵させ、醸造する。
「自然界のさまざまな力を取り込んで発酵させます。試行錯誤し、粘り強く続けることで、いつか空知がブルゴーニュのようなワイン生産地になればいいですね」
静かな語り口ながらもその芯に、ワイン造りへの情熱が込められていた。
幾つかの品種をランダムに植える「混植」も行う『タプ・コプ農場』。下草の種類の多さが、生物相の多様性の目安になる。「ブドウの身になって考えれば、農薬や除草剤をかけられるのは、きっと快適じゃないと思うんです」と近藤さん。
『栗澤ワインズ』で、混植のブドウを仕込んだ発酵途中のものを、特別に飲ませてもらった。そのブドウ果汁は、まさに自然そのものの味。「まだブドウジュースだけど、確かにいろいろな味がする」と類さん。
果汁、果皮、果肉、種など、全てを瓷の中でゆっくり発酵させていく。
栗澤ワインズ
KONDOヴィンヤード
現在、三笠と岩見沢の2つの農場合わせて1万6,000本ほどのブドウを栽培。ワインはまだ生産本数が少なく、そのほとんどが予約販売で売り切れてしまうという。購入方法はウェブサイトで確認を。
岩見沢市栗沢町茂世丑774-2(モセウシ農場)
JR「栗沢」駅より車で20分
※醸造所は見学不可。ブドウ畑の見学はウェブサイトから要問い合わせ(繁忙期は不可)