大人の好奇心を満たす旅へ~吉田類の北海道紀行/赤平編
挑み続ける赤平の町工場
赤平市で宇宙開発事業に挑戦する地場企業『植松電機』。
植松努社長とは初対面ながらも、たちまち意気投合。
大いなるチャレンジ精神を持つ『植松電機』の根源に迫った。
コスモトーレ
道央自動車道を降りて『植松電機』に向かうと、まず見えてくるのが鉄骨で組み上げられたタワーだ。
高さ57 mの「コスモトーレ」は、宇宙空間のような重力環境で起こる現象を調べるための微小重力実験施設。円筒状のチューブの中で重さ約500kgのカプセルを自由落下させることで、カプセルの内部に約3秒間の微小重力環境を作り出す。低コストで繰り返し実験できるのが「コスモトーレ」のメリットだ。約100km/hのスピードで落下するカプセルは、空気の圧力を利用してブレーキをかける。着地の瞬間は「ドゴーン」という大音響と衝撃が響く。ここを含めて世界で3カ所しかない施設のため、さまざまな大学や研究機関から研究者がやってくる。
「実は全く儲からないんですが(笑)、当社の社員が最先端の研究を学ぶ貴重な機会になっています」
そう話す社長の植松努さんによると、同社のルーツは炭鉱で使う各種機械のモーターの修理だったとのこと。その後、培った技術を生かしてリサイクル分野に参入。パワーショベルに装備するマグネットを独自開発し、製造・販売まで一手に手掛けている。
転機になったのは、平成16年(2004)の北海道大学大学院の永田晴紀教授との出会い。共同でCAMUI型ハイブリッドロケットの開発に着手し、平成19年(2007)には亜音速域における飛行実証に成功するなど、今も挑戦を続けている。
ロケット教室
子供たちの自信を奪う言葉「どうせ無理」を撤廃して、「だったらこうしてみたら?」と提案しよう。
多くの講演や著作を通じて、そんな前向きなメッセージを発信してきた植松さん。平成22年(2010)には研修専用の施設を建設し、年間で約1万人の子どもたちを受け入れて、ロケット教室などの教育プログラムを実施している。その並々ならぬ情熱に触れて、「本当に素晴らしい取り組み。夢が詰まってますね」と類さんも大いに感銘を受けていた。
この日は明治大学の研究チームが使用中。落下カプセルは二重構造で、内側のカプセルに実験機器を搭載。貴重なデータを収集できる。
ロケット発射体験
工場や施設の見学を終えると、同社のスタッフが体験学習で使用するロケットをスタンバイして待っていてくれた。「僕が発射ボタンを押していいの?」とうれしそうな類さん。
「ではカウントダウン、行きます。5、4、3、2、1、発射!」
やや緊張の面持ちで類さんが手元のスイッチをオンにすると、植松電機オリジナルのモデルロケットα-6sは、「バシュー」という快音とともに、白煙の軌跡を描いて、赤平の青空に打ち上がった。
ロケット教室では、子供たちが自らロケットを組み立て、打ち上げも体験。「炭鉱からグライダー、そしてロケットまで、空知の未来は夢いっぱいだね」と類さん。
植松電機
パワーショベルに搭載するマグネットシステムの設計・製作・販売を軸に、宇宙開発事業や教育事業など、幅広い分野でチャレンジを続ける注目のテック企業。
赤平市共和町230-50(赤平第2工業団地)
TEL.0125-34-4133
※工場見学・体験学習・講演依頼等については、ウェブサイトで確認を
JR「赤平」駅より車で10分