人と自然と動物を大切にする酪農家の思い
広大な土地と豊富な資源がある北海道は、日本最大の酪農王国です。肉用牛の飼育頭数日本一に加えて、日本の生乳の半分以上が北海道産で、高級アイスクリームやお菓子などの原料にも高品質な北海道産生乳が選ばれています。北海道で酪農を営む渡辺体験牧場の渡辺隆幸さんに、お話を伺いました。
Profile
渡辺体験牧場2代目オーナー
渡辺隆幸(わたなべ たかゆき)さん
1962(昭和37)年北海道生まれ。渡辺体験牧場を自分の代で日本一の牧場にする大きな夢に向かって奮闘中。目標は「日本で最高の家族、日本で最高の牛、そして日本で最も人道的な牧場を持つこと」。
東京ドーム15個分の広大な面積
道東の摩周湖と屈斜路湖に近い摩周山麓にある渡辺体験牧場。東京ドーム15個分という広大な敷地で約120頭の乳牛を放牧飼育しています。牛たちがのんびりと食んでいる大草原は、35年間にわたって化学肥料や農薬を使用していません。自然のままの牧草は、さわやかで甘い牛乳の秘密のレシピでもあります。
水も電気もない環境で原生林を伐採
渡辺さんのご両親が摩周山の麓に開拓入植をしたのは1955(昭和30)年のこと。水も電気もない環境で原生林を伐採し、根を掘り出して畑を耕し、酪農施設も徐々に導入されました。幼い頃から両親が牧場を営む姿を見て育った渡辺さんにとって、人間と動物が自然のままに共生しているのは当たり前のことでした。より多くの人にこの共生関係を体感してもらうため、牧場ではさまざまな酪農体験活動を行っています。
酪農家の生活や苦労を身近に感じる
渡辺体験牧場では、一般的な搾乳や乳製品の加工に加えて、草刈り機を運転して草原で雑草の手入れをしたり、牛をブラッシングしたり、子牛とのふれあいなども体験できます。中でも渡辺さんのおすすめは「スペシャルフルコース」です。もともと牧草地の輸送に使われていたトラクターに乗って、牛を放牧する草原を見学し、納屋で牛の給餌と搾乳を体験し、おいしい牛乳を味わい、クリームとアイスクリームの作り方を学びます。飼育から生産、加工に至るまで、酪農家の生活のタイムラプス版のような体験内容で、その仕事や苦労を身近に感じることができるのです。
3年後に届く手紙
渡辺さんは、人と人とのつながりにも気を配っています。牧場では、体験メニューの一つとして「3年後に届く手紙」を提供。牧場を訪れた人にその場で手紙を書いてもらい、大切に保管した手紙を、3年後のその日に届くように牧場が投函してくれるというものです。実際にがんに罹患された方が「数年後に妻に手紙を送る方法があれば……」という嘆きを耳にした渡辺さんが、体験メニューとして提供することを決めたそう。親戚や友人、そして自分自身にサプライズで手紙を贈れるこのサービスで、あなたは誰にメッセージを送りますか?
地元食材と新鮮な生乳を使ったグルメ
牧場では、地元の食材と新鮮な生乳を使ったさまざまなグルメも提供しています。渡辺さんがおすすめするメニューの一つ目は牧場の特製チーズを使ったピザ。牧場特製の濃厚でなめらかなシュレッドチーズを惜しげもなくふんだんに使った焼きたてのピザは、食べる手が止まらないほどのおいしさ。二つ目は北海道名物のジンギスカンで、四角く平たい鉄板を使って旬の野菜と新鮮なラム肉を焼いていきます。
牧場の生乳のおいしさを味わう
もちろん、牧場の生乳を使ったアイスクリームや瓶牛乳、ヨーグルトなども大人気です。北国の美味しさをお土産にして、家族や友達とシェアしたいなら、牧場の搾りたて牛乳を使ったチーズタルトもおすすめです。
道東の大自然を体感できる絶景スポット
牧場での酪農体験に加えて、「道東エリアは活火山や湖など、豊かで雄大な自然が広がる場所なので、ぜひ景勝地を訪れてみてください」と渡辺さん。絶景スポットとして挙げてくれたのは、「摩周ブルー」と呼ばれる神秘的な摩周湖、今も噴煙を上げ続ける活火山の硫黄山、世界で2番目に大きいカルデラ湖の屈斜路湖とその屈斜路湖を一望できる美幌峠です。
おとぎの国のような絶景
「道東を訪れた際には、湖や山で北海道の美しさを楽しんだ後、うちの牧場でリアルな酪農生活を体験してみてください」。牧場は冬期間休業していますが、雪の季節には白い雪と青い湖が牧場の背景に見えるそうで、「まるでおとぎの国のような絶景」と語る渡辺さんの笑顔が印象的でした。