「本当の知床」を知るために。
羅臼・斜里の両方から流氷が育む豊饒の海を見る。
世界自然遺産の知床は、半島の中心にある知床連山を挟んで大きく2つのエリアに分かれています。西側がオホーツク海に面した斜里(しゃり)町、東側が根室海峡に面した羅臼(らうす)町で、それぞれのエリアで冬のシンボル・流氷の質も違います。2つの知床から、本当の知床を知る冬の旅に出かけてみませんか。
ロシアからの流氷が知床の海を白く染める冬
流氷が誕生するのは、北海道から約1,000km離れたロシアのアムール川の河口付近です。シベリアからの季節風や海流に乗った流氷は、次第に成長しながら北海道へやってきます。知床半島エリアは北半球で最も南にある流氷観測ポイントで、同じ緯度でもヨーロッパでは流氷を見ることができません。
シベリアから吹いてくるマイナス40℃の寒気、オホーツク海にある低塩分水の層、そして列島や半島、大陸、島に囲まれた地形、この3つの条件がそろったため、オホーツク海沿岸では低緯度にもかかわらず流氷を見ることができるというわけです。
その冬の寒さなどの気象条件によっても異なりますが、例年1月初旬ごろからオホーツク海の沿岸部で流氷が確認できるようになります。海一面が白い氷で埋め尽くされるダイナミックな風景が広がるのは、2月上旬から3月上旬ごろまで。知床では、流氷の時期に船を港に留めておくと流氷の圧力でつぶされてしまうため、船はすべて陸に揚げられます。知床半島の断崖絶壁は、こうした流氷の圧力によって形成されたともいわれています。
流氷原が広がる斜里エリアで氷と遊ぶ
オホーツク海に面した斜里町のウトロ海岸は、流氷観光のメッカです。流れてきた流氷が知床半島にせき止められることで氷の密度が高くなることから、一面の流氷原(りゅうひょうげん)が出現するのです。壮大なオホーツク海がどこまでも白い氷で埋め尽くされた神秘的な光景は、まさに一見の価値ありです。
ウトロでの人気アクティビティといえば「流氷ウォーク®」。ドライスーツを着て、ガイドと一緒に流氷の上を歩くツアーです。高い保温性と浮力を兼ね備えたブーツ一体型のスーツなので、凍えることも濡れることもありません。流氷の上を歩くだけではなく、海に飛び込んで流氷と一緒にぷかぷか浮かんだり、氷と氷の隙間から流氷の妖精・クリオネを探してみたり。冬の知床ウトロでしか味わえないレアな体験ができます。
斜里町側では、流氷の海に沈む夕日を見ることができます。夕陽スポットとしては、世界自然遺産エリアの始まりの位置にある幌別海岸や、ウトロから知床五湖や知床峠に向かう坂の中腹にあるプユニ岬などが人気です。夕陽に照らされた流氷が黄金色に輝く様子は、寒さを忘れてずっと見ていたくなるほどの美しさです。
羅臼エリアで流氷の海をクルージング
一方、流氷が知床半島を回り込んで到達する羅臼側は、流氷の密度が低いのが特徴です。ここでぜひ体験したいのが「流氷クルーズ」。紋別や網走で運行している大型の砕氷船ではなく、旅客定員20~70名程度のクルーザーで、浮かぶ流氷を縫うように進みます。世界遺産の知床の冬を海上から見ることができるため、世界中から学者やプロカメラマンも集まる人気のクルーズです。
クルーズ中には、ロシアから越冬のために飛来するオジロワシやオオワシに高い確率で遭遇することができます。世界最大級のワシが流氷の上を飛び交い、時に流氷の上で羽を休める姿や、流氷の上でくつろぐアザラシの様子など、ここでしか見られない印象的なシーンに感動すること間違いありません。
羅臼町側に宿泊したら、ぜひ早起きして流氷の海から登る朝日を見てみてください。朝日が昇りはじめるころ、少しずつオレンジ色に染まっていく空と一面に広がる流氷の見事なコントラストは、まるで幻想的な絵画のよう。朝日を背景に、流氷の上を飛ぶオオワシやオジロワシの姿を写真に収めてみませんか。
2つの知床の冬を味わうという特別な体験を
タラバガニや毛ガニ、サケ、ホタテなど、知床の海の幸の美味しさには定評があります。特に、毎年3月末から4月にかけて水揚げされる「流氷明けの毛ガニ」は、ぎっしりと身が詰まった最高の旬の味といわれています。
オホーツク海を豊饒の海にしてくれているのは、豊富な栄養が含まれている流氷です。流氷の下、海水に浸かっている部分にはアイスアルジーと呼ばれる植物プランクトンが付着しており、これを食べるために小魚が集まります。その小魚を食べようとたくさんの魚が流氷の周りに集まり、今度はそれを狙うアザラシやオオワシ、オジロワシなどがやってきます。この食物連鎖のきっかけになっているのが流氷なのです。
多種多様な生き物が躍動する冬の知床の海では、そんな生命の循環が繰り広げられているのです。知床が世界遺産に登録された大きな理由である「海から川、森や山までまたがる豊かな生態系」を、羅臼と斜里の両方から眺めてみると、私たち人間もそのサイクルの中に生きているということを実感することができるはず。
羅臼と斜里を結ぶ知床横断道路は11月から4月まで積雪で通行止めになってしまうため、冬は回り道をする必要がありますが、両方の冬を味わうという特別な体験にはそれだけの価値があります。この冬は斜里と羅臼に滞在して、一味違う知床の魅力を探してみませんか。
■冬しかできない一生モノの感動を!海の上を歩く流氷体験 知床・網走の旅(HOKKAIDO LOVE!)