ジュエリーアイス——北海道の冬が生んだ透明な氷の芸術

北海道の冬にだけ現れる「ジュエリーアイス」。十勝の豊頓町・大津海岸では、十勝川の凍った氷が海岸に打ち寄せられ、朝日を受けて輝く透明な氷が毎日異なる形で現れます。この自然現象を数十年にわたって撮り続ける写真家・岸本日出雄さんに、ジュエリーアイスの秘密から最適な撮影方法まで、北海道の冬を満喫する方法を聞きました。
Profile
写真家、札幌コマーシャルフォト代表取締役
岸本日出雄(きしもと ひでお)さん
1950年生まれ。高校生の頃から写真に傾倒し、大手広告代理店の写真部を経て独立。2008年から北海道の自然と野生動物を撮影し続けています。
厳寒期の十勝川が生み出した、流氷とは違う透明な氷
豊頓町の大津海岸では、十勝川の水が凍り、それが塊となって海に運ばれます。この氷の塊が潮位の変化によって海岸に打ち寄せられたものがジュエリーアイスです。十勝川の水はプランクトンなどの生物を含まないため、透明度が非常に高く、朝日を受けると輝きを放ちます。
北海道の冬の風物詩として知られる流氷とジュエリーアイスは全く異なります。オホーツク海の流氷はロシアのアムール川の水が凍ったもので、塩分を含んでいます。一方、ジュエリーアイスは十勝川が凍ったもので、塩分を含みません。この違いが、ジュエリーアイスの透明度の高さを生み出しているのです。厳寒期には十勝川の氷の厚さが20㎝に達し、その氷が塊になって海へ運ばれます。
この現象に「ジュエリーアイス」と命名したのは、地元の写真愛好家・浦島久さん。その後、ニューヨークタイムズの電子版にも掲載され、世界的な注目を集めるようになりました。帯広空港からは車で約1時間という好アクセスで、「北海道の新絶景」と呼ばれる大津海岸へ訪れることができます。
刻々とアイスの輝きが変わるマジックアワー
一般的には1月中旬から2月中旬が撮影に適した時期です。この期間、ジュエリーアイスが最も安定して海岸に打ち寄せられます。岸本さんが特にお勧めするのは3月です。この時期、昼間は氷が溶け始め、夜間に冷え込んで再び凍ります。毎日異なる形や色のジュエリーアイスが現れるため、訪れるたびに新しい景色を発見できます。
ジュエリーアイス撮影の最適時間は、日の出までの20分間「マジックアワー」です。空がまだ暗い時間帯にカメラをセットすれば、紫色からオレンジ色、そして黄金色へと変化する空とジュエリーアイスを同時に撮影できます。冬の早朝なので防寒対策は必須。ハンドウォーマーやネックウォーマー、イヤーマフなどの防寒具を用意しましょう。
野生動物の撮影も夜明けが狙い目
ジュエリーアイス撮影と同様に、マジックアワーは野生動物の撮影にも絶好のチャンスです。野生動物が最も活発になるのは夜明け。この時間にエサを求めて出てくるエゾシカなどの動物たちを、朝日を背景に撮影できます。
冬は野生動物の撮影に最適です。夏には植物に隠れて見つけにくい動物たちが、葉が枯れた冬にはっきりと見えるようになるからです。望遠レンズを使い、音を立てないよう注意しながら、遠くからシャッターチャンスを待つ。それが岸本さんからのアドバイスです。
また、知床のクルーザーツアーでは、羅臼港から約30分で流氷とオオワシを同時に撮影できます。体長約1メートルのオオワシは日本最大級の猛禽類で、絶滅危惧種です。朝日を浴びる中での出会いは、生涯忘れられない思い出となるでしょう。
ヒグマが活動する場所はできるだけ避ける
北海道にはヒグマも生息しています。岸本さん自身も撮影中にヒグマと遭遇した経験があります。雪解けが早い年は、冬眠から目覚めたクマが活動を始めるため、注意が必要です。ヒグマが活動する場所はできるだけ避けることが重要です。もし遭遇してしまった場合は、ヒグマは自分より強い動物を恐れるため、深く低い声で叫ぶなどの対応が役立つ可能性があります。
糠平湖のアイスバブルのような貴重なシーンも
また、帯広から車で約1時間の糠平湖では、冬に運が良ければ「アイスバブル」を見ることができます。湖底から湧き上がるガスが、湖面にたどり着く前に水中で凍ってしまう現象です。氷に閉じ込められた無数の気泡は、時が止まったかのような風景を作り出します。例年1月中旬から2月上旬に見られますが、湖面の氷の上に雪が積もると見られなくなる、極めて貴重なシーンです。
今回は冬の撮影スポットを紹介しましたが、北海道は四季がはっきりと分かれているため、季節ごとに異なる魅力があります。いずれのシーズンも、新しい景色と出会える可能性にあふれています。北海道で、カメラを持って四季折々の風景を捉えてみませんか。ジュエリーアイスのような自然が生み出す絶景があなたを待っています。















