積丹の風土から生まれたクラフトジンで、 美しい積丹ブルーを満喫する旅へ!
北海道の酒どころを訪ねる旅シリーズ【新しい北海道のお酒を味わおう!】
道内各地に増えているワイナリーをはじめ、日本酒の酒蔵が次々と誕生するなど、今や北海道は「酒どころ」として注目を集めています。ソムリエや唎酒師の資格を持つお酒のプロの松岡さんと一緒に、北海道の新しいお酒を訪ねる旅に出かけましょう!
旅に出たのはこの方!
「祥瑞 札幌(しょんずい さっぽろ)」店主
松岡 修司(まつおか しゅうじ)さん
■プロフィール
1958年、東京都生まれ。サラリーマン時代のバブル期を東京で過ごし、ほぼ毎晩ワインを飲みながら多彩な料理を食べ歩く。1993年にサッポロファクトリー「札幌葡萄酒館」の開業に携わり、そのまま札幌に移住。2008年にオーナーソムリエとして「祥瑞 札幌(しょんずい さっぽろ)」をオープン。
【主な資格】ソムリエ、日本酒唎酒師、焼酎唎酒師
ジンの本場に自然環境が近い積丹半島で、「火の帆」という名のジンが誕生。
今回、私が訪れたのは積丹町。積丹岬や神威岬など「積丹ブルー」と賞される美しい海と、ウニをはじめとする新鮮な海の幸に恵まれたまちです。その積丹町で2020年春にオープンした「積丹スピリット」では、地元のボタニカル(香りづけに使う植物)を生かしたクラフトジン「積丹ジン 火の帆(HONOHO)」を造っています。プラントマネージャーの岩崎秀威さんにまずお聞きしたかったのは、数あるお酒の中で、なぜジンだったのかということでした。
「ジンはオランダが発祥ですが、本場はイギリスです。中でも有名な蒸溜所のあるシェトランド諸島と積丹半島の植生がよく似ていたんです。調べてみたら、積丹には非常に豊富なボタニカルが自生していることがわかりました」
積丹の海ではなく「山」に注目した面白いアイデアが採用されて、国の地方創生事業交付金を活用し、積丹町が事業主体となってプロジェクトが進行しました。
ちなみに「火の帆」というブランドネームも積丹町にちなんだもの。積丹半島は火山活動によって生まれた半島であり、毎年7月には「天狗の火渡り」が行われるなど、「火」とはゆかりの深い土地なのです。
「蒸溜酒は火の酒とも呼ばれますし、舟を走らせる帆のような力強さのあるジンにしたくて」。
北海道や積丹の素材にこだわった、まさに「積丹テロワール」のジン。
ところで、EUではジンには3つの定義を設けています。穀物原料が主体のアルコールを使うこと、「ジュニパーベリー(セイヨウネズともいわれる針葉樹の実)」というボタニカルを主体とした香りづけをすること、瓶詰め状態でのアルコール度数が37.5°以上であること、この3つを満たすとジンと呼ぶことができるのです。
「積丹半島の断崖にミヤマビャクシンという木が群生しているのを発見したんです。なんとこれがジュニパーの仲間で、本当の意味でのジャパニーズクラフトジンが造れると思いました」。
しかし、その場所は国定公園内で収穫することができません。そこで岩崎さんたちは、ジンに必要な樹木とハーブ類を栽培することから始めました。
「ジュニパーベリーをはじめとする伝統的なボタニカルは輸入していますが、それ以外は北海道や積丹のものにこだわっています」。
ワインでいうテロワール(ブドウ栽培における自然環境)のようなもので、まさに積丹テロワールのジンということなのですね。
香りを残した蒸溜酒をブレンドして造る、「森のジン」と「花のジン」の2タイプ。
積丹ジンには「KIBOU/きぼう」と「BOUQUET/ブーケ」という2つのタイプがあります。
「KIBOUのキーフレーバーはアカエゾマツの新芽で、とても強い柑橘系の香りがします。一方のBOUQUETは蒸溜した花がテーマで、フルーティーですごく華やかな香りです。どちらもブレンドで造っているというのもうちの特徴ですね」
積丹ジンは、原料となるボタニカルの種類ごとに蒸溜して、後で調合するというスタイルを取っているそうです。
「KIBOUとBOUQUEのために、十数種類の蒸溜酒を造る必要があります。さらに、植物の香りを残したテイストに仕上がる減圧蒸溜器を使っています」。
話を聞くうちに我慢できなくなって、テイスティングさせていただきました。うん、どちらも美味しい!
そのままでもよし、水で割ってもよし。カクテルの香りづけにもぴったり。
ワインバーの店主として気になるのが、おすすめの飲み方です。
「お酒に強い方には、常温のストレートか、ロックで飲んでいただきたいですね。一般的なおすすめは、水と1対1で混ぜるトワイスアップです。まずは常温の水とジンだけで味わって、後から氷を入れてみてください。温度と濃度の変化で立ちのぼる香りがどんどん変わりますから、それを楽しんでいただきたいですね」。
多くの種類のボタニカルが入っているので、温度と濃度で香りがくるくる変わるのだそう。
「火の帆は、カクテルなどの香りづけにも使い勝手がいいんですよ。ジンジャーエールに3滴ぐらい入れると、大人のジンジャーエールになります」。
なるほど…うちのお店でもいろいろ試してみたいと思いました。
積丹ブルーをイメージしたKIBOUに、いつまでも豊かな海への希望を込めて。
さらに、積丹スピリットでは新たな取り組みがスタートしました。それが「KIBOU 海と日本プロジェクトエディション」です。積丹ブルーを再現した限定発売のジンで、売り上げの一部がウニの餌場の再生に取り組む地元漁師の活動団体に寄付されます。
(注釈:その後「UMI」としてレギュラー商品化。1本あたり100円を積丹町内の農場内に設置する「希望の森」の苗木の購入費用に充て、地域の子どもたちとともに植樹して、豊かな海森の保全に役立てています)
「この色が出るまでには結構苦労しました。積丹の海をイメージした色には、積丹の自然、山や森や海を次世代につなげていきたいという思いを込めています」
海を育てるのは森、とよく言われます。山や森の栄養をたっぷり含んだ水が川から海へと流れ、海の生き物を育てるのです。
「青く美しく、資源豊かな海は積丹の宝物です。その海を守りたいという漁師さんたちと一緒に、これからも活動を続けていきたいですね」
積丹にはいろいろな魅力がありますが、そこにジンが加わることで、さらにパワーが増したように思いました。これからは、積丹ジンを楽しんだり手に入れたりすることが、旅やドライブの楽しい目的になりそうです。
「積丹生まれのジンが、積丹の海の幸に合わないわけがありません」
岩崎さんのおっしゃる通り、積丹ジンで色々なマリアージュを楽しんでみませんか?