伝統芸能から
アイヌ⽂化の
豊かさと魅⼒を
知ってほしい

公益財団法⼈アイヌ⺠族⽂化財団
⽂化振興部 伝統芸能課 舞踊グループリーダー

⼭道ヒビキさん

アイヌとシサㇺが共に力を合わせて伝統芸能に取り組む。

ウポポイでは、舞踊グループリーダーという、26 ⼈のメンバーをまとめる役割を務めています。私は平取町出身で、幼い頃からアイヌの歌と踊りをしてきましたが、まだまだ経験やスキルが足りないと考えています。それを教えなければならないということで、プレッシャーを感じることもありますが、各地の伝承者に話を聞いたり⽂献をあたったりして、根拠を示しながらメンバーに伝えるようにしています。

舞踊グループのメンバーは、半数がアイヌで半数はシサㇺ(和⼈)です。お互いの⽂化を⼤切にしながら、アイヌ文化の継承・発展に取り組んでいます。歌と踊りといったアイヌの芸能は、地域によって節回しや⼿、⾜の運びが異なるため、歌い分けや踊り分けに苦労しました。そのほかにも私は、伝統芸能上演プログラムのステージ構成を組み⽴てるという業務がありました。これまでに、⽇本語の解説を加える「シノッ アイヌの歌・踊り・語り」と、イヨマンテという儀礼を題材にした「イノミ アイヌの祈り・歌・踊り」というプログラムを準備しました。

扱っている演目は合わせて17演⽬あり、そのうち7演目は阿寒、帯広、むかわ、本別の伝承者に指導していただいたものです。そのほか10演目は、これまで白老や各地域で伝承されてきたものをベースに、残されている貴重な⾳声・映像資料を照らし合わせて、できるだけ忠実に復元しました。歌や踊りは、昔のままに受け継いでいくことが難しく、少しずつほかの文化の影響を受けてしまいます。それを、暮らしの中で受け継いでいた時代に立ち返ってみようという試みです。

それぞれの地域を紹介するのがウポポイの役割。

アイヌの芸能は日々の暮らしや儀礼の中で受け継がれていくもので、それを現代に伝えたい、残したいという思いを強く持っています。「イノミ アイヌの祈り・歌・踊り」では、熊の霊送りである儀礼「イヨマンテ」の饗宴の⼀部を再現したいと考えました。イヨマンテでは、カムイ(神)をもてなすために歌と踊りが繰り広げられます。過去のイヨマンテを実際に見たことがない世代の私たちにはイメージを持つことが難しく、数多くの模索をしました。

⼀⽅の「シノッ アイヌの歌・踊り・語り」は、⽇本語で解説してから踊りを披露するというスタイルです。各地の特徴を活かすことにこだわっているので、演⽬に合わせてその地域の着物に着替えます。各地の伝承者に⼿取り⾜取り教えていただいたものを、できるだけ忠実に再現するように心がけており、教えていただいた8名のお名前は、パンフレットにも記載させていただいています。中には「伝えられてよかった」と涙を流される⽅もいて、うちのメンバーも⼀緒になって泣きました。そんな⼼の交流も財産になると思います。

メンバーの中で歌と踊りの経験者は10名ほどで、あとは初⼼者でした。歌や踊りは簡単なものではありませんし、見た目以上にハードです。ステージを成⽴させることだけを考えたら、どこかの地域の演目に絞ったり、各地域の特徴をミックスさせたりなど、オリジナルの演目を作る⽅が簡単です。しかし、ウポポイには、それぞれの地域について紹介する役割があります。私たちのステージで各地域の紹介をしていますので、次はぜひ、その地域に⾏っていただければと思っています。

新しい⾔葉をつくることで、⽣きた⽂化に。

アイヌの芸能のほかに、アイヌ語や⽊彫りなど、アイヌ⽂化に関してはこれまでに⼀通り経験してきました。興味を持っていた、ステージプログラムの企画構成も担当できました。また、公園職員と博物館の研究員・学芸員、アイヌ語の研究者で構成される「国立アイヌ民族博物館におけるアイヌ語表現・新語検討ワーキング会議」の委員として、ウポポイの施設にある看板や案内・サインなどのアイヌ語を考えるという経験もさせていただいています。

ワーキング会議では、既存のアイヌ語にない新しい⾔葉を作るべきか否か、という議論から始めました。各国の先住⺠族マオリやネイティブハワイアンなども、新しい⾔葉をつくることで、自分たちの言葉で会話をしている。その姿を見たときに生きた文化だと感じました。アイヌも同じように新たなアイヌ語の取り組みとして新語を作っていきたいと考えています。新語といっても、アイヌ語としてのベースはしっかりとあります。たとえば「体験交流ホール」なら、「体験交流=⼈が多く集まる=ウエカリ」「ホール=家=チセ」というように、既存のアイヌ語を拡⼤解釈して使っています。

ウポポイでは、アイヌ語を第一言語として位置付けており、使わないと上達しないので、簡単なアイヌ語を皆で使うようにしています。また、皆がポンレというアイヌ語のニックネームを持っているので、いつもポンレで呼びあっています。「イノミ アイヌの祈り・歌・踊り」でもメンバー同⼠のやりとりはアイヌ語です。シフト勤務で毎日メンバーが変わり、アイヌ語セリフもアドリブなので、演目の導入には各地域の⽅⾔が飛び交います。そのあたりにも注⽬していただけると、ステージをより楽しんでいただけると思います。

さまざまな⽂化が尊重し合う世界に。

アイヌ⽂化を扱う仕事ができるのはとても恵まれていて、それが当たり前だと思ってはいけないということ。アイヌ⽂化の中でも芸能は広く知られているため、はじめにお客さまや各種の取材の多くが私たちのグループにきます。もちろんメンバーは全力で頑張っていますが、ほかの分野の人も同じように頑張っています。せっかくウポポイに来たのに、伝統芸能上演プログラムを観ただけで帰ってしまうお客さまもいると聞き、少しだけ残念な気持ちがあります。

私は幼いころからアイヌの歌と踊りをスパルタで教えられ、毎晩1時間はストレッチ、1時間は歌と踊りの練習をして、⼟⽇は各地に踊りに行くという⽣活を続けてきました。それが嫌になり、アイヌ⽂化から離れた時期もありました。そんな時に札幌で開催された「先住⺠族サミットinアイヌモシㇼ 2008」 で、⾃分と同年代の⼈たちが新しい表現⽅法でパフォーマンスをしている姿に衝撃を受けて、アイヌ文化の魅力に気づきました。

私たちは決して、アイヌ⽂化のことだけを知って欲しいと考えている訳ではありません。アイヌ⽂化は世界の⽂化のひとつに過ぎないと考えています。ウポポイを通して、世界にはさまざまな⽂化があり、それを尊重し合うことが⼤事だということを伝えていけたらいいですね。同じクラスにアイヌや外国⼈など、自分たちとは異なるルーツを持つ人がいても当たり前です。将来、⼦どもが⽣まれたら、アイヌであるということを理解しつつ、ほかの⽂化もナチュラルに受け入れることができる感覚を持ってほしいと願っています。