フラを踊るように
アイヌ古式舞踊を
みんなが楽しむ
世の中にしたい

(株)プライム アイヌモシリ三光 新千歳空港店 店⻑
札幌ウポポ保存会事務局⻑

藤岡 千代美さん

札幌ウポポ保存会にいるからできることがあります。

親からは、自分がアイヌだとは知らされていませんでした。25歳くらいの時に木彫りは習いましたが、ただやってみたいと思っただけで。サッポロピリカコタンへの就職を母に勧められた時に、なんとなく自分はアイヌなのかなと思うようになりました。そこで働く以上、アイヌ文化を知ることは必須です。まずはピリカコタンにたくさんあった本でアイヌ文化を勉強し、わからないことは仲間に尋ねながら工芸品も作り始めました。

その1年後に「札幌ウポポ保存会」に入って、はじめて民族衣装を身にまといました。血が騒ぐというか、なんとも言えない感情が生まれたことをよく覚えています。それから17年ほど活動していますが、保存会にいることで文化の伝承ができることをつくづく感じます。いい例がアイヌの儀式です。カムイに捧げる歌や踊り、儀式で着る衣装、必要な料理や供物まで、すべて経験することができます。これは保存会にいるからできることです。

私は手仕事が好きなので、工芸品はすぐに作れるようになりましたが、それだけではアイヌとは言えません。同じように、歌が歌えること、踊りが踊れることがすなわちアイヌではありません。大切なのは、アイヌとしてしっかりとした芯を持つことです。最近になって、アイヌの精神性や文化をきちんと理解して、それを基礎として活動をしている人を育てていきたいとも思うようになりました。今後は、そんな若い人たちのために尽力したいと考えています。

新千歳空港ステンドグラスのアイヌ文様をデザイン。

その後、現在の会社に転職しました。週に3〜4日ほど新千歳空港の店舗に出て、あとは会社でデザインの仕事をしています。その一環として、新千歳空港国際線ターミナル3階 保安検査場壁面ステンドグラス「アイヌモシリ-神々の住む大地-」のアイヌ文様を監修しました。北海道の窓口となる空港の、しかも国際線に飾られるということで、アイヌ文様や着物のステンドグラスという案もありましたが、最終的に動物にアイヌ文様を入れることを決めました。

カムイである動物にアイヌ文様を入れることについては、アイヌの中でも絶対に賛否が分かれると思いました。でも、伝統に固執していては新しいものは生まれません。そもそもステンドグラスはアイヌ文化には存在しないものですし。北海道の大自然とそこに生きる動物たちにアイヌの伝統的な文様を組み合せて表現することで、より多くのみなさんがアイヌ文化に興味を持つきっかけになってくれればいいと考えました。

アイヌ文様に関してはオリジナルの文様を考えて、デザインを担当するステンドグラスの会社に、それを崩さないように描いてもらいました。アイヌ文様についてはトラブルもありますが、アイヌである私が関わることで、守らなければならない最低限の決まりごとをクリアすることができます。出来上がった作品のクオリティにはとても満足しています。新型コロナウイルスが落ち着いた後には、きっと多くの外国人観光客にアピールできることでしょう。

アイヌの工芸品が、北海道のお土産の新たな定番に。

ほかに大きな仕事としては、新ひだか町の真歌公園に建立された新しいシャクシャイン像の衣装や装身具の監修も担当しました。「平和と共生を祈る」というコンセプトに基づいて、新ひだかアイヌ協会と何度も打ち合わせを重ね、凛々しい威厳の中にも優しさを表現するデザインとなりました。まだ訴えなければならないこともありますが、以前の像が作られた時代とは社会背景も変わりましたから、戦いではなく話し合いでの解決を呼びかけ、あらゆる民族と共存共栄する平和な未来と、恵みの大地に感謝の意を込めた立ち姿のオンカミ(拝礼)の姿となりました。

これまで差別や偏見に苦しんできたアイヌがいる一方で、今の若い世代にとっては、アイヌは格好いいものというイメージもあるようです。新千歳空港の店舗でも、オープン当初は本当にマニアックなお客さまが立ち寄るくらいだったのが、アイヌ文化に関心を持つ若い層が増えました。きっかけはやっぱり「ゴールデンカムイ」ではないでしょうか。アイヌの工芸品はプレゼントとしても喜ばれるそうで、北海道のお土産の新たな定番になっています。

アルバイトを雇うときによく言うのが、「あなたの対応が、そのままアイヌの人たちのイメージになります」ということ。いち土産物店ですが、アイヌ文化の一端を担っているというプライドが大事なんです。お客様に尋ねられて「わかりません」ということのないように、スタッフにはアイヌ文化の知識もできるだけ教えています。応募してくるのは、もともと興味を持っている人たちなので、積極的に勉強してくれてとても助かっています。

アイヌがアイヌの仕事で食べていける社会をめざして。

アイヌ文化の伝承については危機感を持っています。昔のことを知っている私の母の世代がすでに70代ですから、早くしないと途絶えてしまうのではないかと。なんとかしたいと思うものの、それぞれ普段の生活もあるので、アイヌ文化のことばかり考えているわけにもいかないのが難しいところです。口伝えだけでは限界がありますから、マニュアルを作るのも一つの手ではないかと思います。本当にそういう状況になってきているんです。

札幌ウポポ保存会も継続させて、次の世代につないでいくのが私たちの役目です。子どもたちにも、強制するのではなく、ただその場にいてくれるだけでいいと言っています。保存会の集まりに来ても何もしないでいるような子でも、家に帰ってから歌を口ずさんだり踊ったりしているようです。それで十分だと思うので、その環境だけは守らなくてはいけません。それと同時に、子どもたちが希望を持てるような社会にしていくことも大人のアイヌの課題です。

個人的には自分の作品の個展を開くのが夢ですが、大きな目標としてはアイヌの雇用が広がるような活動をしていきたいですね。アイヌがアイヌの仕事で食べていけるような社会になるのが理想です。たくさんの人が、ハワイアンキルトをやるようにアイヌの刺繍を趣味にしたり、フラを習うのと同じ感覚でアイヌ古式舞踊を習ったり。アイヌ文化は世界的にもすばらしい文化なので、それくらい「あたりまえ」で「おしゃれ」な存在になれるはずだと思っています。

(2020年9月)