姉妹でアイヌ音楽のユニットとして活動しています。
阿寒湖は観光地なので、夏季シーズンにはアイヌコタンは沢山の観光客でとても賑やかでした。長老たちのアイヌの歌やムックリの音色が休みなく流れている環境で育ったので、自然とアイヌの踊りや歌や楽器に触れる機会も多かったと思います。私たち姉妹も物心つく前から阿寒アイヌ文化保存会の活動に参加していて。コタンに住んでいる子供たちのほとんどは、冬季の閑散期になるとおばさんたちから踊りを習ったりして、楽しく過ごしていました。【富貴子】
20代前半に、東京のアイヌ料理店「レラ・チセ」というお店で働いていたことがありました。その場所を通して、阿寒湖以外のアイヌの人たちに出会ったり、友人が出来たりして、その仲間たちと歌や踊りを共に学び会う機会がありました。アイヌのウポポ(歌)も、そのくらいの頃からステージで歌うようになりました。【絵美】
2011年に、音楽ユニットの「kapiw& apappo(カピウ&アパッポ)」を結成しました。ユニット名は日本語で「カモメと花」という意味です。カモメが姉、花が私で、自分たちの好きなアイヌ語のニックネームです。二人がそれまでに教えてもらったことや経験してきたことを、アイヌの伝承歌「ウポポ」や、民族楽器の「ムックリ」「トンコリ」を交えながら歌っています。【富貴子】
ゴザをアレンジしたオリジナルのカゴバッグを製作。
アイヌの木彫家だった叔父・床ヌブリの旧アトリエを引き継ぎ、夫と「Cafe&Gallery KARIP」を営んでいます。伝統的なゴザをアレンジしたカゴバッグをはじめ、コースター、ブレスレット、小物など、いろいろ取り組んでいます。カゴバッグの材料は、ガマという水辺の植物を使います。湖沼がなくなったり、護岸工事で草が生えなくなるという環境問題も、ものづくりを通して考えるようになりました。毎年継続的に利用するためには、山菜などもそうですが、すべてを採集するのではなく、若い芽は残しておいたり、毎年取る場所を変えるなど、アイヌの生活の中に学ぶことが多いです。一点一点ハンドメイドなので量産はできませんが、アイヌ工芸や北海道の風土を感じさせるものが日常生活にあることで豊かな気持ちになれるような、そんな作品を作っていけたらいいですね。【絵美】
カゴバッグ作りでも、うまくいかなかったり、うっかり目を飛ばしたりした時は最初からやり直すしかありません。材料の中には、祖母が何十年も前に植えたオヒョウの樹皮もあります。そんな貴重なものを遺してくれた祖母には感謝しきれませんし、樹皮を見ると祖母が長いスパンで考えながら自然と向き合ってきたことを実感します。それを商品にして売ってしまったら自分の手元になくなってしまうし、良いものを作ってみんなに使ってもらいたい……。なので、素材は無駄にできないし、素敵なものを作れるように頑張らなくちゃね。【絵美】
アイヌ料理店のメニューも素材を無駄にしない心で。
私はアイヌコタンでアイヌ料理店を営んでいます。もともと母が始めた店で、「ポッチェイモ」は当時からの人気メニューです。最初のうちは、浦河の祖母が仕込みを手伝いに来てくれていました。その仕込みがものすごく大変で。冬のあいだ外に置いて凍らせて、発酵したジャガイモの皮を剥くのも一苦労だし、独特の臭いもきついし、寒い時期に水を使うし……とにかく重労働なんです。中学生だった私たちも、よく手伝わされました。【富貴子】
今は父が仕込みをやってくれていますが、その大変さがわかっているので、大切に使わせてもらっています。ポッチェイモとしてだけではなくピザにして出したり、そういうアレンジはしていますが、作り方の基本は祖母の姿を見て覚えたものです。料理の仕方はもちろんですが、ものを大切にするという気持ちの方を強く受け継いでいるかもしれません。「ひとつも無駄にできないんだよ」という祖母の言葉は、今でも私たちの耳に残っていますから。【富貴子】
今の阿寒湖を舞台にした映画「アイヌモシリ」に出演。
2020年に全国公開された映画「アイヌモシリ」では、阿寒のアイヌコタンや、北海道に暮らすアイヌ自身がアイヌの役を演じています。いい映画を作るために、それぞれ協力しあって役割を果たしたという感じです。監督さんが、台本のセリフにとらわれずに「こういう意図でこういうシーンを撮りたい」と、役者の気持ちを大事にしてコミュニケーションをとりながら、撮影が進められました。【絵美】
映画の中で印象的なシーンはたくさんありますが、ちょっと嬉しかったことのひとつは、阿寒湖中学校の図書館や体育館、校歌の歌詞など、卒業生としてとても懐かしい風景が映像に残されたことですね。来年には小学校と統合になり壊されてしまうので…。今回出演した息子も、映画に出たことでいろいろなことを考えるようになったと言っていたので、成長のきっかけにもなったと思います。【絵美】
映画を含めていろいろな経験をしてきた中で思うのは、表現って何だろうということ。アイヌ文化は料理も歌も踊りもシンプルなので、真似しようと思えばすぐに似たようなことができるんです。でも、私たちの音楽や料理や工芸には、祖母や母、家族と過ごした時間や、コタンの人や出会った人たちと共有した思い、そのすべてが表れているように思います。「それって何?」と聞かれても説明できないのがジレンマですが、その繋がりを大切にしていきたいですね。【富貴子】
(2020年10月)